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 動きがあったのは僕が山と町を往復することが十を越えそうになった辺りである。そろそろ場所がなくなってきたなあ、と思いながら僕が周辺地図を見ていると、土方さんが伊佐早、と呼んだ。
「はい」
「今日は、町へ行くのは少し待ってくれ」
「何かありました?」
「話したいことがある」
そう言って土方さんはてきぱきと人を集めた。僕たちがやってきた日と同じように、全員が一つの部屋に集まる。そう言えば初日ぶりだった。結構みんな自由にしているので忘れていた。
「夕張の噂を聞いた」
 土方さんの話を掻い摘むと、町へ情報収集に出ている部下の人から連絡があったのだと言う。刺青人皮らしきものを見かけたという話を夕張で聞いたのだと。夕張、と僕は考える。此処からそう遠くない場所だ。でも、団体で移動するということはないだろう。数人で潜入した方が目立たないには違いない。呼び止められたと言うことは僕に行けと言うつもりだろうか。そりゃあ僕はこの中では一番普通≠ノ見えるだろうけれど。
「それで、俺たちを送り込みたいと?」
同じことを思ったのだろう、尾形さんが先に問うた。尾形さんの視線を追うように、僕も土方さんを見遣る。
 土方さんは薄い、笑みを浮かべた。
「伊佐早を、」
その視線は、尾形さんの方へと向けられている。
「置いていけ、と言ったら?」
 一瞬、空気が固まった。何か言おうとした僕に、永倉さんが唇に指を当てて見せる。尾形さんからは見えない角度。どうやら本当に僕を置いていかせるつもりはないらしい。ただ、試験と言ったところか。人質を置いていくだけの従順さがあるかどうか、見ておきたい、というところだろうか。うん、ないと思う。尾形さんがそんな誰かのもとで満足出来るようなひとだったらそもそもこんなところにはいないと思うのだ。言い方は悪いけれども土方さんたちを利用しているのだと思う。大きな目的が一致しているから、そして一番敵対し辛いから。他の、金塊を狙っているひとたちがどんなひとたちなのか僕は知らないが、うまく行かなくなったらどうせ此処だって離れるんだろう、と思う。
 その時に僕は尾形さんについていくのか。
 それは分からないけれど。
 でももし許されるのならついて行きたいな、なんて思っている。死ぬかもしれないのに、結局僕はそう思っている。目的も何もかも(まあ嘘があるかもしれないということは念頭に置いているけれど)話されても僕は、尾形さんについて行こうと決めたのだった。そう出来るかはさておき。尾形さんは心配なんて言葉とは無縁だけれども、やっぱり僕の知らないところであれこれ怪我されるのは何か、こう、違う。僕は尾形さんの先生であるのだし、恋愛感情を差っ引いても。
―――殺させやしない。
あの時僕は、殺されは≠オない、と言われることは予想していても、そう言われることは予想していなかった。たった一文字の違い、ただそれだけと言われればそれだけ。
 でも、大きな違いだ、と思う。
 それを、僕は解明したい。
 暫く土方さんを見返していた尾形さんだったけれども、
「趣味が悪いぜ、爺さん」
長い溜息と共に尾形さんは笑みを吐き出した。
「そんな、微塵も思ってないことを言うっていうのは」
 尾形さんは僕の腕を掴むようなことはしない。それは、僕が何処にも行かないと分かっているからなんじゃないのか。信頼、なんて、此処にはない。有用性はあるだろうけれど、尾形さんは僕に信頼を置いてはいないはずだ。医者としての腕は信用しているだろうけれど。
「置いていかねえ、連れて行く。それに、此処に置いといたらいつとって食われちまうか分からんしな」
 いろいろ考えていたのに、その台詞を聞いたらそれまでの思考は吹っ飛んだ。
「尾形さん! 家永さんに失礼ですよ!! 家永さんだって選り好みはするでしょう」
「………あのなあ、」
アンタそういうところ甘いよな、とひどく呆れた視線でもって。尾形さんにそんな視線を貰う謂れはないと思うのだが。
「家永に聞かれてんだよ、食べて良いかって」
「えっ」
思わず家永さんを見る。目を逸らされる。何で!? いや何でも何もない、今尾形さんが言ったことが本当だからだろう。
「………ちゃんとだめだって言ったからな」
「いやそれは聞かずとも分かりますけど」
「………アンタ、本当に…」
「何ですか」
 尾形さんは何か言いたそうな顔をしていたが、言いたいことがまとまらなかったのか、今度で良い、と言われた。今度、がどうやらあるらしい。だから僕もそうですか、と引き下がることにする。
「決まりだな」
土方さんが笑って、それから牛山、お前も一緒に行け、と言って、そうして僕は尾形さんと牛山さんと共に夕張に向かうことになった。


















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