ミドリは君の色
ねえお兄さん悪い人なの?
自分よりも少しだけ年上だろうその人に話し掛けたら、この制服が怖くないんですか、と言われた。
「制服」
「知らないんですか?」
「ロケット団、だっけ。なんか近所の人が言ってた」
「伝聞ですか」
「うん、最近こっちに引っ越して来たばっかりだから」
昔の記事探してみたけど結局なんかピカチュウが人気になったことしか分からなくて、と続けると、お兄さんは気を悪くしたようにチッと舌打ちをした。きれいな見た目に反してガラが悪い。
「そうですか」
「ん?」
「私たちの行動は、他の地方ではその程度のものだったのですか」
「そんなすごいことしてたの」
「やってないことはないくらいに」
「へえ」
「あと私はピカチュウが嫌いです」
「何で」
「それでボスが倒されたからですよ」
「お兄さんの方が記事よりずっと役に立つね」
―――殺されたいんですか。
なんて。
お兄さんは言わなかったけれど。
目が雄弁だった。殺してやりたいと、でもしないのはきっと組織が立て直しの時期に来ているからだろう。よく知らないなんて嘘だ、でもお兄さんは見抜けなかった。もしかしたら見抜いていて他の都合で見逃されたのかもしれなかったけど、結局事実だけがすべてだ。
ピカチュウ人気のことしか、残っていないように。
「ねえお兄さん、ヤドンのしっぽって美味しいの」
「高級食材ですよ」
「じゃあ私もヤドン捕まえようかなあ、テレポート出来るポケモン欲しかったんだよね」
「…しっぽ食べないんですか」
「自分のポケモンなら自分で好きな時に口に入れられるじゃん」
「………どうしてか、貴方が言うとひどく、………そうですね、こどもがあやまってくちにしないようにしてください、という感覚に陥るのですが」
「失礼な、これでも立派なレディですよ」
「何処が」
視線が私の身体の外殻をなぞっていって、ああこれつるぺったとか思われたんだろうな、と思う。まあその通りだけど、普通にセクハラだ。ロケット団のお兄さんにはそんなこと関係ないのかもしれないけれど。
「お兄さん、お名前は」
「どうして名乗らないといけないんです」
「ポケモンバトルしてみたくなったから。なら名乗らないとだめでしょ」
「そういうものですか」
「でも出来たらロケット団以外の名乗りが良いなあ」
「我が儘すぎません?」
「レディなので」
「それで通すつもりですか」
それでもお兄さんはため息をついてから帽子を取った。帽子を取ると制服を着たままでも随分違って見える。
「あー…ええと、では、………どうしましょう」
「もうミドリとかで良いんじゃないですか。テキトーに。ミドリタウンとか」
「何処かにあったらどうするんです」
「あったらあったで」
「はあ、もうそれで良いですよ。………ミドリタウンのランス」
「フウジョタウンのイヅミ」
「何処ですかそれ」
「カロスです」
「随分遠くから来たんですね」
「ええ、まあ、いろいろあって」
それ以上言葉は要らない。
互いにモンスターボールに手を掛けて、その開閉ボタンを押す。
「行け!!」
願わくばその声が、歓喜のものと聞こえるように。
孤独な愛の育て方 @kimi_ha_dekiru
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