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 剥製屋へと向かう道すがら、牛山さんが足を止めた。
「ん? ありゃあ…」
「お知り合いですか?」
僕も同じように足を止めて戻ってくる。男の二人組。半纏をまとった男と軍帽をかぶった男。
「脱獄囚の一人だ。坊主の方。白石と言う」
「兵隊さんが一緒にいるみたいですけど、尾形さんみたいな脱走兵ですか?」
それにしては見覚えがないけれど。僕はこれでも自分の記憶に自信を持っている。名前はあんまり覚えられないが、一度見た顔を忘れることはない、と思う。
「いや…除隊済みって話だ。不死身の杉元、って聞いてる」
「不死身」
今、何か引っかかったような気がした。でも何が引っかかったのか全然分からない。しかし不死身なんて物騒な二つ名だ。僕だってそれが戦争でついたものと分かる故に、その壮絶さを想像して身震いした。大抵そんな二つ名をつけるのは趣味の悪い軍医であることを僕は聞いていたけれど、つまるところ軍医を震え上がらせた回復力の持ち主なのだろう。多分。他だったらちょっと恥ずかしい。のでそれ以上何も言わないことにした。幸い、牛山さんはそれ以上追求するつもりはないようだし。
「あいつらがいるってことは…」
「…尾形さんとかち合うかも?」
「そうだな」
 なんとなく、剥製屋に今から向かっても無駄足なような気がした。牛山さんも同じように思ったらしい。
「先生に聞きたいんだが、尾形はそういう時、どうするかね」
「ええ…ちょっと僕そういうのは門外漢なんですけど…そうですね、此処の刺青人皮の話次第でしょうが、まだ何も見つけてない時にかち合ったとしたら…流石の尾形さんでも体力とか温存の方向で動くんじゃないですかね。具体的にどういう…っていうのはないんですけど…って、あ、さっきの白石さんってもしかして、土方さんの言ってた白石さんですか」
「そうだな」
「なら、その人に頼んで、杉元さんを引き離してもらう…? とか…?」
「ふむ」
不死身、なんて二つ名を持っている人と真正面からなんてかち合いたくないだろう、と思う。尾形さんだって別に戦闘狂という訳ではないのだろうし。…いや、不可能を可能にしようとするというか妙なところで矜持を持ち出しそうだとか、そういう部分での杞憂がない訳ではないが。僕は彼の医者として、それが本当に杞憂であることを願うばかりである。
「意外と先生の考えは良いセン行ってるのかもな」
 牛山さんが同意したとなれば剥製屋に向かう意味は今度こそなくなった。手当たり次第街行く人に声を掛けて、慌てて走っていた人がいないかどうか聞いて回る。その途中で、
「伊佐早先生」
あれ、と牛山さんが指さしたのは疾走するトロッコだった。
「って、尾形さんじゃないですか、あれ」
「………だよな」
「なんでトロッコに?」
「分からん…」
本当にどうしてトロッコになんて乗っているのか分からなかったが、まあ遊んでいる訳ではないのだろう。
「…僕たちも追います?」
「いや…今入っても合流できるかは怪しいしな…」
「でも多分、入っていったってことは誰か追い掛けてる、んですよね…」
「逆側に回れれば早いんだろうが、山だからなあ…」
 そんなことを話していた僕らは、炭鉱で起こる事故のことを、すっかり頭から落としてしまっていたのだった。


















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