さよならの約束はできない



 あまりにも太刀川さんが私のところに来るものだから、暇なんだと思っていた。この街においてA級隊員が暇というのはなかなか良いことではあるけれども、そもそもこの人大学生なんじゃないのか、と。授業とかは良いのだろうか。
 そんな疑問を払拭するように、新たな登場人物が現れる。
「太刀川さん!!」
見つけた! と叫んだ彼は高校の制服を着ていて、だから一目で先輩だと分かる。ボーダーには学生が多いと聞いていたけど、学業との両立は大変だろうなあ、とも。
「何でこんなところに…」
「えー。言っといただろ。いつものとこに行くって」
「って、ああ、じゃあ、この子が…噂の………」
その妙に整った顔の先輩は、私の制服をじっくりと見てから、すう、と息を吸った。
「中学生じゃないですか!!」
「中学生だよ」
「太刀川さん条例って知ってます?」
「なんかアレだろ、根付さんがいつも言ってるやつ」
「根付さんが言うことって大体重要なことって分かってます?」
「一応」
 太刀川さんの一応はアテにならねえー! と叫びながらその先輩は律儀に挨拶をしてくれた。ウチの隊長が迷惑を掛けてすみません、と。出水先輩というらしい彼はたいへんモテそうだな、と思う。
「変なこととか…されて…ないですか。大丈夫ですか」
「出水の中の俺ってなんなわけ?」
「大学留年しそうな人は黙っててもらえますか」
その言葉にああやっぱり大学生だったんだ、そして留年しそうなんだ…と思う。それはそれで心配だが、まず私は出水先輩の誤解を解かなくてはならない。
「変なこととかはされてないですよ」
「本当に?」
「本当に」
「よ、よかった…?」
出水先輩が本当の本当にほっとしたように見えて、私は大変だな、と思った。その一因は私なんだろうけれど。
 話が終わったのを見て、太刀川さんが身を乗り出してくる。
「…俺さ、」
「はい」
「少し、出張だから」
向こうで出水先輩が部外者にそういうこと! と叫んでいるのが聞こえる。でも、残念ながら私は部外者にはなれなかった。なれていたら、楽だったのに。
「………ああ、はい」
「だから。うん。ちょっと会いに来れなくなるから」
「別に会いに来て欲しいって頼んだことないですよ」
「はは、そういうとこ、」
 笑おうとして、太刀川はやめた。
「なんでもない」
―――似てる。
そう、言おうとしたのだろうな、と分かる。でも分かるだけだった。
「太刀川さん」
「何」
「お土産もお土産話もいらないので、帰ってきたらまた顔みせてくださいね」
「分かった」
「それまで、」
 手のひらが熱い。
 この人は生きている。
「これ、預けておきますから」
大事にしてくださいね、と言って私が渡したのは、あの日落としたドッグタグだった。太刀川さんは何か言おうとして、一つ、しっかり頷いて、それを受け取ってくれた。


















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