さよならはもう言いたくないから
どうして太刀川さんは私を訪ねてくれるのだろう、と思うことがある。あるけれども、結局私が何も言わないから、なのだろう。
約束通り、出張≠ェ終わってすぐ、太刀川さんは私に顔を見せてくれた。ドックタグもちゃんと、返してくれた。私にとって、とても大切なもの。…多分、太刀川さんにとっても。覚えている、忘れたことなんてない。一緒に馬鹿やれる友達と、これを買ったんだ、なんて。
旅行になんて行くものかと、そう言ってた兄が突然普通に旅行へ行くと言った、その修学旅行で。私は多分、それを疑うべきだった。
「太刀川さん」
私は呼ぶ。太刀川さんはうん、と頷いて私を見ている。
「もう会わないことにします」
もっと早く、言えば良かった。私の迷いは見透かされていて。だから太刀川さんは様子を見に来てくれていた。会いに、来てくれていた。
本当は何も関係のないこどもに。
気を遣わせてしまった。
「ありがとうございます、兄さんはちゃんと死んでいた」
太刀川さんの目が見開かれる。
ごめんなさい、とはもう言えなかった。ありがとう、と言えただけ良かったことにしてしまいたかった。
*
玄関を両手で閉めてさようなら 鎖骨の味と手首の匂い / ロボもうふ
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