さよならを云う価値もない、
ああ、真っ平だな、と思う。もしも世界の端が突然切り取られたみたいになっていて、其処から海の水がだばだばと落ちているのであれば、世界はこんな形をしていたんじゃないかなあ、と思うような瞳だった。多分これを正直に彼に言えば、何を言ってるか分からない、という顔をされるだろうけど。まあそれは彼が人間として未熟だとか、そういうことではない。単に私がめちゃくちゃな例えをしているだけだ。
「…久我原は、」
それを聞きておや、と目を丸くする。彼には敵わないだろうけれど。いつもはお前だのなんだの、名前で人間を個体として認識するのを嫌ってるのかとでも思うくらい、名前を呼ばない人だと思っていたから。
「これから、どうするつもりだ」
もう、その目は細められていた。勿体ないな、と思う。もっと見ていたかったのに。
「どうも何も、」
私はぐっと乗り出す。彼には残念ながら、身を引いてくれるような可愛げはない。
「貴方が進むならついていきますが? まあ、死ぬかもしれませんが!」
どうせ人間いつか死ぬんですから恋に死んでも同じですよね!
そう言ってから掻っ攫った唇は薄べったくて、ひどくやる気のない感じだった。ので二回目に挑戦したら流石にそれは阻まれた。
*
初めての草むらで目を丸くして何かを思い出している猫 / 笹井宏之
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