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 俺は少し情報収集してくるから先に戻って牛山迎えてろ、と言われてしまえば僕は頷くしかなかった。繰り返しになるが、別に尾形さんが何処かへ行くことを懸念しているのではないのだし。
 水を持ってさっきの場所に戻ると、もう牛山さんは外に出て来ていた。周りからどよめきが聞こえる。そりゃあそうだろうな、と思いながら僕は出来ることをすることにした。僕が出迎えに行ってもやれることはないだろうし。人ひとりくらいなら担げるだろうが、まあ、牛山さんがいるのにそうする必要があるかと問われると微妙になってしまう。
 苦しそうな二人の男、そしてその後ろから着いて来る少女と男。後ろの二人はアイヌだろうか。というかこの二人、さっき見かけた二人だ。良いのかな、と一瞬思ったけれども牛山さんが普通に抱えているんだから良いんだろう。僕は患者の選り好みは基本的にしないし。そもそも医者というのはそういうことをするものではないし、選り好みなんてしたら僕はきっと僕ではなくなってしまうし。
「先生、頼めるか」
「はい!」
とりあえず、と思考は一旦隅へと追いやる。考えることはあとでも出来る、今はまず、治療だった。

 そうして一段落ついたところで牛山さんが話を進める。一方的に知っているのかと思ったら知り合いのようだ。なんともまあ、不思議な図式になってきた。牛山さんも刺青の入った囚人だと聞いているし、もしかすると皮を剥ぎ合うようなことになりかねない知り合いとは、なかなか難儀なものだなあ、なんて思っている。
「ていうか、お前らも何な訳? 医者だったら家永がいるだろ」
どうやら家永さんとも知り合いらしい。僕は答えて良いのか分からなかったので黙っておくことにする。とりあえず二人とも中毒症状などはなさそうだ。このまま水をちゃんと飲めば大丈夫だろう。
「ちゃんと飲んでくださいね」
「ほら! 飲め!」
「もっと持ってくるか?」
「死ぬかと思った〜」
「死ぬかよ…こんなので…」
なんとなく愉快そうだ。
 黙っていた僕の代わりに、牛山さんが説明していた。まあ、僕としては助かる。何にせよ僕は尾形さんのおまけだし、尾形さんは尾形さんで土方さんのおまけだし、そういうのは任せた方が良いだろう。面倒だし。軍帽の方―――杉元さんが連れ? と言ったところでぐい、と後ろに引き寄せられた。
「センセー」
 尾形さんが戻ってきたらしい。
「尾形さん、危ないですよ」
「診察は終わっただろ」
「終わりましたけど、引っ張ることないじゃないですか」
「そいつらにかかずらってると馬鹿が感染るぞ」
「仲悪いんですか?」
僕は特に可笑しなことを聞いたつもりはないのだが、尾形さんは奇っ怪なことを聞かれた、というような顔をした。そんな顔をするほど仲が悪いのだろうか。
 さっきまで治療していた方も方で、杉元さんは複雑な顔をしている。囚人と聞いた方―――白石さんは僕と同じように、仲が悪いのか、と思っているようだった。よく分からない。
「まあ、答えたくないなら答えなくても良いんですけど」
「言わなくても分かると思っただけだ」
「そうですか」
それはまた、尾形さんにしては妙な言葉を使う。言わなくても分かるだろう、なんて。そんなこと思っていないだろうに。
「その二人は殺しても死なんから放っておいても良いくらいだ」
「いや人は死にますよ」
「死なん」
「なんですかその自信…」
「もう良いから黙ってろ」
「はあい」
 どうやら移動するらしい。まあ別にそこまで追求するような話ではないので、立ち上がる。
「荷物は」
「全部まとめましたよ」
「そうか」
「尾形さん煤とかで大変なことになってますし、僕だって別に困るほど荷物持ってないので自分で持てますよ。大人しくしててください」
「………」
尾形さんが黙り込む。新しく加わった四人がなんとも言えない視線を送っている。牛山さんは気にしないらしい。
「で、どっちに行くんですか」
「………あっちだ」
「あ、剥製屋さんですか?」
「…何か聞いたのか」
「聞いた、というか。尾形さんが一人でいなくなったので」
探しました、と素直に言う。別に隠すことでもないので。
「………」
 奇妙に、尾形さんの表情が歪んだ。何だろう、この表情は。と、思っていると、少し喉を整えるようにわざとらしい咳があって、それから言葉が転がり落ちた。
「わ、るい」
正直に言えば、驚いた。今まで催促して言わせたことはあったが、尾形さんから自主的にそんな言葉が出るとは思っていなかった。
「悪いと思ってもいないのに謝らなくても良いですよ」
「…思っては、いる」
「思ってるんですか」
「…センセーが、」
どう言ったら良いのか、尾形さんも分かっていないのかもしれない。
 僕が、尾形さんの言葉をどうやって受け取ったら良いのか、分かっていないのと同じで。
「そういう顔を俺に向けるのは、嫌だ」
そういう顔とは、どういう顔だろう。そうは思ったものの、まあ、ここまで言われてしまえば折れる他あるまい。
「………我が侭なひとですね」
「我が侭なのか、これ」
「僕はそう思いますよ」
「…今度からは何か言うよう努力する」
「そうですね。そうしてもらえると有り難いです」
 もう怒っていませんよ、というつもりで笑ってみせたら、まだ怒っているのか、と問われた。どうやらわざとらしいにもほどがあったようなので、そうじゃないですよ…とちゃんと訂正しておいた。


















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