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 剥製屋さんこと江渡貝邸はなかなか面白い場所だった。思わずため息が出るほどである。
 尾形さんと牛山さんが説明をするのであれば僕はいなくても良いだろうし、ならばと思って家の中を回ろうとしたら尾形さんに首根っこを掴まれた。
「………僕いなくても良くないですか?」
「ジジイが来るまで待ってろ」
「ええ…」
誰のことを言っているんですか、と返そうかと少し迷ったが、まあ土方さんのことだろう。どうやら尾形さんは思いの外情報を手に入れていたらしい。まあ、勝手に行動しておいて手土産はなし、となれば流石に怒られるだろうし、情報はないよりある方が良いのだろうけれど。
「…あとでついていってやる」
「そんなに信用ないですかね?」
「―――いや」
 まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなくて目を見開いた。
「ただ、家の中なら安心とも言い難いだけだ」
「………そう、ですか」
尾形さんが僕の方を見たらどんなことを思うんだろう。僕は咄嗟の表情の作り方なんて知らない。尾形さんは何も考えずに言っただけ、かもしれないのに。
 俯いた視線の先で、影が、動いて。
 尾形さんが振り返るより先に土方さんが入ってきた。

 一時緊張感の走った部屋だったが、少女のお腹の音によってその空気は緩和、家永さんの出現によって一時休戦といった様子になった。家永さんが料理をしてくれることになって、その間何をすることもないと思ったので尾形さんを見遣る。
「………」
ため息でも吐きそうな顔をしてから、それでも尾形さんは土方さんに声を掛けて歩き出した。どうやら約束は守ってくれるらしい。意外だ。その場しのぎで言ったものかと思ったのだけれど。
 どうやら、僕はそろそろ尾形さんへの評価を更新しなければならないのかもしれない。場所も状況も変わって、気持ちの面でも変化があっても可笑しくはないだろう。そんなことにも気付けなかったなんて、僕は思っていたよりも環境に慣れるので手一杯なようだ。
 と、かなんとか考えていたのに、別の部屋―――恐らくは隠し部屋―――に入ったらとりあえずそんなものは思考の隅に追いやられた。
「はああ〜…」
「………センセーは、こういうの好きなのか」
「好きというより、学術的にこういうものがあればとても役に立つのではと思ったんですよね。ほら、人間の身体の中って今は絵図で示すしかない訳ですし、ずっと開いておける訳でもありませんし」
ホルマリンは色が悪いですし、と続ける僕に何が違うのか分からない、という顔を尾形さんは向ける。まあ、理解されるとは思っていなかったから良いけれど。そういえばさっきの部屋では他の面々が引いていたな、と思い出す。囚人から皮を剥ぐなんてことをやっているのに、こういうのには嫌な顔をするという方が僕には分からない感情だった。同じようなものなのに、これには目的らしい目的が見られないからだろうか。
 でも、目的があったところでそれを伝えられなかったらただのものになってしまうだろうし、逆もまた然りではないのだろうか。あとから付けた価値を、当然のように流布してしまえば真実なんて知る人はいなくなる。
―――今、やっていることだって。
すべて終わってみなければ何があとに残るかも分からないのに。
「………?」
ひょい、と廊下を覗いてみると何やら争ったあとのようなものが見えた。難しい顔をして剥製と向き合っている尾形さんを置いて歩き出す。尾形さんが僕の足音に気付かないなんてことはないだろうので、放っておく。
 窓が割れているのか、きらきらと光が乱反射している。
 その、隣に。
 力のない、足。
「…前山さん」
知った顔だった。
 僕は静かに近付いていく。人の歩き回る音が廊下に響き渡っている。倒れている身体の隣にしゃがみこんで、僕はその顔を見た。
 額に一発。僕はこんなことが出来る人間を一人しか知らない。
「センセー」
声を掛けられる。僕は振り返らずに問うた。
「…尾形さんが殺したんですね」
「ああ」
応えは簡潔。尾形さんにとって、自分の邪魔をする人間を殺すことはそう難しいことではないし、大したことでもないのだろう。それは分かる。尾形さんの方が少し年下とは言え、彼は戦争にだって行っているのだから。そして、生きて帰ってきた。それはそれだけ、誰かを殺したということだ。
「恐ろしいか?」
「…そんなの、」
目は閉じられていたので触れることもしなかった。僕に出来ることはない。死体を前にして、悲しんだりすることはもう、僕には出来ない。
「今更ですよ」
 本当は振り返って笑ってやるだけの気概があれば良かったのかもしれなかった。でも、僕にはそういうことは出来ないから。
「僕だって、関わったんです」
だからせめて、いつもの調子で言う。
「今更です」
何も変わらないのだと、証明するように。
「そうだな」
 頷かれる。
「アンタも、殺人者だ」
言い切ってから尾形さんは頬の傷がかゆいとでも言うようにその傷に触れて、それから呟いた。
「これ以上なく似合わんな」


















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