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兎に角尾形さんと杉元さんは仲が悪いらしい。水と油とはこのことを言うのだろうか、と僕は家永さんにおかわりを頼みながら思った。しかし殺されかけたとは穏やかじゃないな、と思う。この先そういうこともあるんだろうな、とは思っていたけれども既に何かしらあった後だったとは。というか僕はその話は初耳だった。患者さんが、医者が聞かなかったことに言及しないことは初めてではないので、つまりこれは僕の落ち度であるので何も言わないけれど。
患者さんは、嘘を吐く。
僕はそれを知っている。だから、今更僕の知らない情報を出されても特に動揺はしない。そもそも現状だって理解が追いついているとは言い難いのだ。一体僕の知らないことが幾つあるのか、そのうちの幾つを僕は知っても大丈夫なのか。まだ少し、判断するには距離を測りかねている。
「美味しいですか?」
三回目のおかわりをお願いしたら家永さんは驚いたような顔をした。
「美味しいと思いますよ」
だから僕は素直に返す。
尾形さんがなんとも言えない顔で僕の方を見ていたけれども、何が言いたいのか分からなかったので放っておいた。他の人だって美味しいと言っているのだから可笑しなことはないと思うのだけれど。
「センセー」
難しい顔のまま、尾形さんが話しかけてくる。
「何ですか」
「美味いのか」
「美味しいと思いますよ」
もう一杯おかわり、と要求したら、今度は卓についた全員から見られた。
さて、食事も終われば今後どうするか、という作戦会議をしなくてはならなくなる。刺青人皮の偽物が存在するかしないかが分からない以上、あるという前提で動いた方が良いだろう、というのが全員の意見のようだった。まあ、僕もそう思う。この屋敷の主は死んでいたと尾形さんが言うので、その、一緒にいたらしい月島さんの死体が見つかれば、偽物もその近くにある、ということになるだろう。
その話を聞きながら、僕は困ったことになったな、と思う。僕は別に金塊が欲しい訳でもないのでやや他人事ではあるが、此処にいる誰もが今後の対立のために、出来ればその偽物を確保しておきたいと考えていることだろう。今は一時休戦となっているが、同じ目的で金塊を探している訳ではないのだから。そういうことを考えながら行動するのは結構大変だな、と思う。
そんなふうに考えていたからか、あくびがこみあがって来たので噛み殺す。今日はしっかり寝てきたはずなのに、移動したから疲れたのだろうか。
「………」
それを目敏く見つけた尾形さんがため息を吐きたげな顔で僕の肩を押した。
「少し休め」
邪魔だとでも言いたいのだろうか。まあ、僕が此処にいたところで有益な意見は出さないだろうが。
何を考えているのか想像がついたのか、違う、と尾形さんは言う。
「センセーは疲れているだろう。いろいろあったんだから」
「それはみなさん、同じだと思いますが」
「あの馬鹿共を診たりもしただろ」
「あの、僕は医者ですよ? それをいろいろに含まれると少し困るんですが。手術した訳でもないのに」
そういうことを言いたいんじゃない、という顔をされたが、だからと言って何を言いたいのか分かる訳ではないのだ。僕は別に、尾形さんの心が読めるとかではないのだから。
「尾形さんこそ、ガス吸ってるんじゃないですか」
「俺は大丈夫だ」
「医者を前にしてよくそんな素人考えを披露しますね」
「確かに、センセーは医者だが」
「はい。医者なので別に、これくらい平気だって尾形さんは知ってると思うんですが。病院、もっと忙しかった時だって知ってるでしょう」
「そういうことじゃあない」
「じゃあ、どういうことなんです?」
そんな、埒のあかない会話をしていたら、見かねた土方さんが割って入ってきた。
「今日は各々休むとしよう。炭鉱で死体を探すにしても、もう、町の者も休んでいるだろう。何かするにしても屋敷内の探索くらいしかない」
それは確かにそうだろうが、良いのだろうか。月島さんが炭鉱を脱出していたら、此処から鶴見さんのいるところまで―――小樽と仮定した場合でも、一晩あれば移動は可能なのではないか。
土方さんはあれを見ろ、と言わんばかりに視線を投げた。その先では白石さんが大きなあくびをしていた。
それを見たら僕が何を言うのも、可笑しいような気がしてしまって、頷いた。
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