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さて、そういう訳で一晩ぶりに全員集合となった。誰が炭鉱へ様子を見に行って、誰が此処に残って家探しをするか、という話し合いをしなくてはならない。まあ、話し合いと言っても恐らく挙手制だろうけれど。自分がどちらをやりたいか、どちらに適任か、考えて発言したら良い。僕に選択権があるかどうかはさておく。
土方さんが夜中は特に何も見つからなかった、と報告をして、そうだろうな、という空気が漂った。そもそも人間の皮を剥いでなめす、なんてことを普通はしないのだ。その偽物を見分ける方法、なんて正直思いつかない。生きているうちに刺青をいれるのと、死んでからいれるのとでは反応が変わるだろうが、見て分かるようなものなどはなから偽物になんてならないことは僕にだって分かる。
「センセーはこっちだろ」
と、そんなことを考えていたら話は進んでいたらしい。尾形さんに腕を引かれた。どうやら屋敷内の探索組らしい。ぼうっとしていたのは申し訳ないと思うが、そんないちいち言われなくても大丈夫だと言うのに。
僕の表情を見たからか、それとも単に尾形さんの行動が面白かったからか。土方さんが喉を震わせる。
「手放し難いか、尾形」
「無茶するのが分かってるのに目を離せるかよ」
「尾形さん、もしかしてあの時の、根に持ってます?」
「爆破された建物の中へ人命救助に向かったことを言っているなら別に根に持っていない」
「すぐ出てくるってことは根に持ってるってことじゃないですか!」
忘れられているものと思っていたが、どうやら違うらしい。そんなに印象的な出来事でもなかっただろうに、と思う。ちゃんと聞いたことはないけれど、尾形さんだって戦争に行っているのだし、だからあの時手伝ってくれたのだろうし。僕が何をしようとしているのか分かったのは、同じ行動を見たことがあるからだろう。淀みなかったし、もしかしたらやったことさえあるのかもしれない。
だから、記憶に残っているとは思わなかった。自分の行動範囲と被れば、それはただの普通のこと、になるから。
「何をしたんだ?」
「医者として当然のことしかしてません!」
というより、あれは尾形さんの中に無茶で分類されている方が興味深かった。あの時ついてきてくれたのも驚いたけれど、そういう判断をするのか、と。終わったことに対して興味を持たない人間だと思っていた訳ではないけれど、僕の行動に対してそう尾を引くとは思っていなかったのもある。
何がそんなに面白かったのか、土方さんのツボに入ったようだった。この人も大概よく分からない。そしてそのまま、伊佐早は屋敷の方で良いだろう、と言われる。別にどっちでも良いけれど、本当に僕に選択権はないんだな、と思った。いや、本当に別に良いけれど。実際、土方さんにとっての僕は尾形さんの付属品、というのが強いだろうし。僕だって別に、個別に認識されたいか、と問われたらされたくない、のだし。
分かりました、と返事をするだけに留めた。他の部屋を調べてくる、と出ていった土方さんに続いて、各々が動き出した。僕も何かすべきだろう。何を探すのかもよく分からないままだが、何もしない訳にもいくまい。
「センセー」
じっと。
尾形さんが僕の方を見ていた。
「人手が足りないとは言わないんだな」
「………だって、もう、死んでるでしょうから」
俯くような真似はしなかった。そんな長々と引きずるような人間だと思ってもらっては困る。尾形さんだって、それくらいは分かっているだろうに。
どうして、こんなことを聞いたのだろうな、と思って尾形さんを見遣ると、大層愉快そうにしていた。何なんだ、本当に。自分の予想があったていた、というところだろうか。しかし、そういうことをするような理由が僕に対してあるのだろうか。
尾形さんが、僕自身に興味を持ったから、とは考えにくかった。
今後もないとは言い切れないが、少なくとも今はそういったことは起こらないだろう、と思っていた。だから、少し驚いた。けれども少し、だ。それ以上に少しだけ、腹が立った。やっぱりこっちも少しだけ、ではあるけれど。人を何だと思っているんだ、というような部分で。
「………尾形様」
そんな尾形さんを、まだ残っていた家永さんがぎろりと睨んでくれたので、少しだけ腹の虫がおさまった。家永さんは僕とは違う種類の医者なのだと思っていたけれど、それでも仲間意識というか似たような感情はあるらしい。意外だった。食べられそうになっていたらしいけれど。
「………センセー、今ので満足するなよ」
「何にですか」
「いや………」
してないなら良い、と言葉が消えていく。何が言いたいのだろう。僕の追求するような視線に気付いたのか、尾形さんはあれだ、と話題を逸らした。どれだ。
「センセーは月島軍曹の顔を知っているだろう」
「ええ、まあ」
其処に戻るのか、と思ったが特に何も言わずに返すことにした。
月島さんとは何度か話したことがある。大体が鶴見さんからの伝言だったはずだけれど、流石の僕でも月島さんの顔は覚えているし、恐らくそれは逆も然りだ。
「なら余計こっちだな」
尾形さんは間違っていなかった、とばかりに頷いた。一人で納得しすぎじゃないだろうか。
「センセーが軍曹に持っていかれるのは御免だ」
「…持っていかれるって。人をもののように」
実際、尾形さんにとって僕はものなのかもしれなかった。勝手に動きはするけれど、人間として見られているのかどうか。怪しいところだ。…別に、今更そんな扱いで傷付いてやれるほどヤワなつくりはしていなかったが。それでも少々腹が立ったような気がしたので、嫌味を言っておこうと思った。
「さっきは死んでるって言わせたくせに、月島さんが生きてると思っているんですね」
「ああ」
即答。
嫌味、だったはずなのに少し、意外な反応だった。だから、僕は尋ねる。
「仲が良かったんですか?」
「………軍曹だぞ」
「尾形さんって階級とか気に出来るひとだったんですね」
「………」
沈黙は階級について、ではないような気がした。少し考えて、言う。
「何か言いたいことがあるのなら、聞きますよ」
「センセーに言いたいこと…」
おや、と思った。そんなものはない、とでも返ってくると思っていたのに。
「…それは、たくさんあるな」
「へえ、たくさん、ですか」
「でも言い方が分からん。そのうち言う」
今は手がかりを探さなきゃならん、と歩き出す尾形さんの背中に、僕は瞬きをした。
「そう、ですか」
自分の声がどんな色をしているのか、よく分からなかった。
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