愛されているものが、嫌いだった。
「森村って可愛いよな」
休み時間、クラスで聞こえてくる声。森村硝子、クラスメイト。小柄でふわふわしていて、甘い砂糖菓子のような女子生徒。ビスクドールのようなきれいな存在。万人から愛されるような、幸福の姫。
 だから、花宮は彼女を壊そうと決めた。傷付けて傷付けて、世の中愛してくれる人間だけではないのだと、可愛らしい嫉妬など比べ物にもならない程に、壊してしまおう。
 一ヶ月。
 花宮が自分に課した準備期間だった。そこで丁寧に情報収集をして、計画を立てた。そして、きっちり一ヶ月経った日、花宮は行動を起こした。
 昇降口は少し開けた空間になっている。二階の廊下から、一階の昇降口は良く見える。花宮は森村が階段を降りていくのを確認して、二階の廊下で花瓶をいじっている人間にぶつかった。相手は森村を嫌っているらしい女子生徒。名前は知らない、覚える価値もない。ただ、美化委員らしく、此処の花瓶をいじっていた、その事実だけあれば充分だ。
「わっ…」
「えっ、あ、ごめん!」
咄嗟に彼女を支える。彼女の触っていた花瓶は落ちる。
 別に、怪我をさせようとしていた訳じゃない。そういうと言い訳じみて聞こえるだろうが、この作戦では怪我をする確率なんて微々たるものだっただろう。だからそう、少し怖がれば良いと思っただけなのだ。そういうことを増やしていって、彼女にだけ、花宮が関わっていると気付かせることが出来れば、それで。
 重力に従って落下する花瓶に、花宮も女子生徒も手を伸ばす。本気を出せば追いつけただろうが、それでは意味がない。慌てたようにバッと下を覗けば、
「森村!?」
あろうことか、森村硝子は真下にいた。早すぎる、花宮の頭にそんな言葉が走る。階段を降りる速度、タイミング、この一ヶ月ずっとはかってきたはずだ。確かに平均値だが、今、それを超える、なんて。
 瞬間。
 その唇が歪むのを、花宮は見た。
 降り注ぐ水、降ってくる花瓶。そういうものを全て受け入れるように、森村は微笑んだ。全身から森村が力を抜くのが分かって、花宮が動けなかった。スローモーションの中で森村が膝を折る。座り込む。悲鳴は誰のものだったのか、分からない。
 結果から言えば森村は直撃だけは免れたようだったが、至近距離に落ちてきた花瓶は砕け散り、へたり込んでいた森村の小さな身体を猛襲した。少しの間呆然としていた花宮はいち早く我に返り、階段を駆け下りて森村に駆け寄る。ぐったりとする小さな身体を見て、やっぱり浮かんできたのは愉悦だった。
 花瓶にぶつかった女子生徒の姿は、いつの間にやら消えていた。


















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