糸撚りの砂




 此方での生活基盤は大抵伊佐早が構築しているものであって、まず尾形は言語を覚えるところから、というのは分かる。分かるし、言語を覚えなければ何も役には立てないことも理解しているからせっせと勉学に励むだけだ。生活の殆どを伊佐早の収入によって賄っていることに、現段階では不満はない。伊佐早だって、何もしないでいてくれれば良い、などとは言わないのだし。
 とは言え、基本身の回りの世話をしているだけの尾形と、医者として飛び回っている伊佐早では疲労度が変わってくるのは仕方のないことで。
「ただいま戻りましたー…」
いつもより遅い時間に帰ってきた伊佐早を振り返る。
「おかえり」
「遅くなりました」
「飯は」
「軽食だけ摂りました」
その返答にはそうか、とだけ返した。軽食だろうと食べているのであれば良いだろう。
「疲れてるのか」
「まあ、はい。大分忙しかったので…」
 外套やら何やらを脱いで行く伊佐早を見ながら長椅子に座って、隣を叩く。
「どうしました?」
分かっていない様子で其処に腰掛けた伊佐早の、その頭を抱え込むようにしてから膝に倒した。
「尾形さん?」
「頭の位置は」
「え? ああ、ちょうどいいですが…」
「そうか」
起き上がらないように、と上になった左耳を覆う形で手を置く。重しの代わりだった。暫く呆然としていたらしい伊佐早だったが、少ししてからやわらかな声を出した。
「何ですか、甘やかしてくれるんですか」
「これで甘やかされるのか?」
「まあ、それなりに」
笑っているような、そんな音で。それが尾形には、嬉しい。
「このまま寝ても良いぞ」
 少し勢いがついたのでそんなことを言ってみたら、困ったように風邪ひきますよ、とだけ返された。



image song「それはただの気分さ」フィッシュマンズ


















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