震える手を押さえつけた




 暗闇の中で何かが光っていた。知っている、と思いながら手を伸ばす。ひどく馴染んだ色の光だった、それこそ、手を伸ばすことを戸惑わないほどに。けれどもそれが何なのか、このぼんやりとした思考では分からない。どうしてか、ぼんやりしたままでも仕方がない、という思いもあった。地面かも分からないような場所を踏みしめては進む。それが前かも分からないのに、そうすることが正しいとでも言うように。あの光はなんだろう、指先に触れて、思いの外それがやわらかくて驚いた。否、やわらかいのはそれではない。その光を持っているものがやわらかく、あたたかい。それは比較としてそう感じるだけなのかもしれなかった。単なる人間の成人男子は、別にそこまでやわらかくも、あたたかくもないはずだったから。単に目の奥にちらつくような馴染む光が、冷たくかたいものであると、知っているだけ。
 その対比に、ああ、夢だ、と理解した。
 夢なのだ、だから思考は曖昧で、はっきりしないまま。周囲は真っ暗なのに自分と伊佐早と、伊佐早が持っている刃だけが光って見える。本当の暗闇ではそんなものすら見えないのに。ぎりぎり、と力を込めても伊佐早は痛い、とは言わなかった。のっそり、と顔を上げて尾形を見て、それから呟く。
「…どうして止めるんです」
心底理解が出来ない、という表情で。
「貴方が望んだことじゃあないんですか」
 伊佐早は、伊佐早の顔をした何かは繰り返す。
「どうして」
尾形は知っている。例え理解が出来ないことがあれど、伊佐早はこういう顔をしない。少なくとも、尾形に向けては絶対に、しない。それが彼の言う好意とやらに裏打ちされているのか、それとも単に尾形という個に向けられたものなのか、それは分からなかったけれど。
「どうしてですか。こうして欲しかったんじゃあないんですか」
足元に何が落ちているのか、それまでは見えない。尾形が何も知らないからかもしれなかった。それでも、尾形は言える。
「そいつは違うんだよ」
人を殺せる、それでも助けようとする、その覚悟が。
 暗く宿った意思だけはどうしたって折りたくないのだと、そんな矛盾を抱えたまま。



藤野 @fictonkj


















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