ゆりかごの羊は夢を見る
この世界はひどく狭いものだった。それは自由というものを得ても変わらない意識だけれど。そんなことを言えば悲しむ人がいることを、今の僕は分かっているけれど、意識というのはそう簡単に変わるものでもないので勘弁して欲しい。どちらにせよ、此処で終わる世界だ。だから狭くたって別に、困ることはないのだ。狭い、というのは一種、悪のような形容ではあったけれど、それで誰かに迷惑をかけるものでもなければ、狭いままでも良いのではないだろうか。
無知なこどもが空に焦がれるよりも、蹲っていた方が良いのではないだろうか。僕は思う、今でも思う。どうしようもない諦観を誰に共有することもなく、ただ、蟻の行列を眺めるような。足元に伸びた影に驚いて顔を上げることなどしないでいたら。
どうせこの世界には僕を必要とする人なんか、いやしないだろう。どうせ、この世界にいたって、僕は誰かを傷付けるだけなのだろう。
そう、思っていたのに。
「痛くなんかないよ」
今でも、蕩(と)けるような瞳を鮮明に思い出せる。
「順玲は、とても、いい子だよ」
差し伸べられた手が、ひどく特別なものに見えてしまった、そんな感性こそ狭い世界のものなのだと、もっと早くに理解していたら。
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