からっぽの墓
あの男がいなくなったのだから、呼んでみても良いはずだった。だって、私にはそれが許されていた。こんな簡単なものが許されなくて恋なんてものがまかり通る世界は可笑しいと思っていたし、いつかそれが正される日が来るのなら、とすら思っていた。
でも、あの男のいなくなり方は最悪だった。これを呪いと呼ばずしてどうしろと言うのだろう。それが自分の、正真正銘血の繋がった兄だなんて信じたくなかった。少し、先に生まれたくらいで。自分が先に宝石を見つけたから渡しはしないと、そんなくだらないことを至極当然のように言って、私を敵だとでも言うように刷り込んだ、最低の男。
―――それでも。
「伊佐早先生」
「はい」
「私、まだ、伊佐早先生の傍にいて良いですか」
「…君が、それで良いのなら」
今は、まだ。
私の未来のことまで考えてくれる彼に、私に本当は嫉妬させられていた彼に、優しさの欠片を振りかけられる度私は泣きたくなって仕方なくなるのだ。
*
言葉はいつもあたしをいさましくする / 江國香識「すみれの花の砂糖づけ」
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