ゆくゆく行きて雪路(ゆきじ)の跡に
雪の降る夜はひどく静かだ。それを文字通り骨身にしみるほど知っている人間と、知らない人間がこの世界にはいるだけの話。火の在り処さえ追えないで凍えているだけのこどもは、いつまで経ってもそのままだ。火の扱い方を覚えても、自ら火をつけるなんてことが出来ないままでいる。
「死ねないくせに」
だから私は吐くように言うのだ。血を、唾を、この視線が見下げ果てたものになることを願いながら。私がただの烏であったら、きっと彼にとっては良かったのかもしれない。愛することもしなくて良い、その先にある暗がりに身を落とさなくても良い。首を絞めなくても良い、無残な死体にならなくても、良い。
でも、現実はそうじゃあない。私は烏にはなれなかったし、だからこんなところにいる。
「一人で死ぬことも出来ないくせに」
好いた男ただ一人に、簡単な愛の言葉すら吐きかけられないで藻掻いている。
「私が一緒に死んでやるとでも言うと思いました?」
彼の、どす黒いほどに輝く思い出を、塗りつぶすことも叶わないと知っているから。
「絶対にごめんです」
行き先も見えない雪の夜に、ようやっと泣き言を言えるような、そんな体たらくで。
「せめて―――、」
愛して、なんて。
「私を殺してくださいよ」
どうやって言えと言うのだろう。愛というものに傷付けられてきたこどもが、どうやって怒れば良いと言うのだろう。
「出来るくせにやらないの、怠慢なんじゃあないですか」
小さく、出来る訳じゃない、と言葉が落とされる。
誰にも分からない答えにそれでも手を伸ばしたような、そんなまどろっこしい仕草がどうしても、すきだった。
*
草枕 花街生まれの 都鳥 未練ひとつを 峠に残し / 千罪
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