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無事にジャーファル様を追い出して…否、用がないならと帰ってもらって、全員に特に心配はしなくていい旨と、それはそれとして事業路線をそろそろ本格的に変えていくつもりだという旨を伝えた。ここ最近は新しく奴隷も仕入れていないし、大半の者はそうなるんだろう、と気付いていたようで、特に反論は上がらなかった。
『ええ!? バレたの!?』
あまりの声の大きさに、思わず耳を抑えてしまった。
「ヤムライハ様、声が大きいです」
『えっ、あっ! ごめんね…』
こそこそ、とヤムライハ様の声が落ちる。
これはシンドリアを出る際に、ヤムライハ様がくれた実験中の魔法道具だった。ルフの瞳の劣化版…というとアレなので、改良前の品、とでも言っておこうか。つまるところの、電話である。ルフの瞳は数年前に完成したみたいだったけれど、もし通信中にジャーファル様が訪ねてきたら隠すのが面倒になるから、という理由で改良前のこれを使い続けている。まあ、こっちの方が魔力(マゴイ)消費量が少なくて済む、というのも理由の一つだ。
「…やっぱり、ヤムライハ様には黙っての行動だったんですね………」
そうだろうと思った。今まではレームの近くに商団やら何やら、来るときはヤムライハ様から連絡があったくらいなのだ。流石に機密では、と思ってそこまでしてくれなくてもいい、と言ったのだけれど、ヤムライハ様は頑として譲らなかったので、有難く情報を受け取っていた。
それを、掻い潜ってまでの行動。
流石にため息が出る。一国の政務官がそれをするか。こうやって言うと職業差別のように聞こえるかもしれないが、奴隷制を敷いていない国の政務官が奴隷商人に会いに来る、なんて自殺行為もいいところだ。誰か目敏い人間にでも見られて噂を立てられたら、それこそ迷惑どころじゃあないだろうに。本当に、何を考えているのだろう。それに、記憶が正しければこの時期はもうバルバッドを基点として煌帝国と水面下でやりあっている最中じゃあないのか。バルバッドが共和制になるだのならないだのの話が出ているんだから、もう王は煌帝国へ行って会談とかやってるんじゃなかったか。流石に一商人が仕入れられる情報ではないので口には出さないけれど、そうなると王の不在中に任された国を飛び出しての行動である可能性が高い。本当に何考えてんだあの人。いや俺が心配するようなことではないと思うが。せめて王には事前確認したんだろうな、と思いたいが、よく分からなかった。あの王だったら確認されたらすぐにでもGOサインを出しそうだったけれど、ジャーファル様ならいちいち確認しないで飛び出すくらいのことはしそうだった。そういうイメージだった。
『じゃあ、ヨナが奴隷商人をしてるのも…?』
「ああもう、ばっちりバレました。穴があったら入りたいです」
『せっかくやりたくない仕事まで見つけたのにねえ』
「…いや、ええと、そんなにやりたくないわけではないので、それは良いんですが…」
過ぎ去ったことをぐだぐだ考えていても仕方ない。そう思って、俺はヤムライハ様に報告という名の連絡をしていたのだった。ヤムライハ様にはとてもよくしてもらったし、少なからず板挟みにしたのだろうなあ、というのは流石に分かっていたから。
『これは、今まで黙っていたことなんだけどね』
「はい」
『ヨナがいなくなってからのジャーファルさん、すごく落ち込んでたのよ』
「………はい」
『そんなことない、とか言わないのね』
「流石にあの顔見て否定出来るほど心強くないですよ」
もし、これを言われたのがジャーファル様がやってくる前だったら。俺は多分否定した。そんなことないですよ、今まで面倒に思っていた人間が突然消えて、仕事が一つ減って、戸惑っているだけですよ、と。多分そんなふうに言っただろう。
でも。
あの、ジャーファル様の表情を見てしまったら、無理だった。心底安堵したような、嬉しいというのを隠さない、ような。まあ、そんな表情も一瞬で消えたのだけれど。俺だって商人をやっているのだ、一瞬あれば充分だ。それを見間違いと言えるわけがない。
「…俺が、出ていってから」
『うん』
「ヤムライハ様は、ジャーファル様に問い詰められたりしませんでした? 大丈夫でしたか?」
『してないわ。何度か聞かれはしたけどね。ヨナの希望です、って言ってたらそのうち聞かれなくなって、だから、諦めたんだと思ってたんだけどね…』
「敵を欺くにはまず味方からをこんなところで使われるとは…」
本当にひどい話だ。いや、勝手に逃げた俺がまずもってひどい、と言われれば何も言いようがなくなるのではあったが。
『ねえ、ヨナ』
「はい」
『…近いうちに、顔を見に行ってもいい?』
「え? ええ…大丈夫ですが、何もないですよ」
『何もなくてもいいの! ヨナの顔を見に行くんだから』
「………お忍び、でお願いしますね」
『ジャーファルさんみたいにシンドリアの服で行ったりしないわよ』
「それもそうなんですが、ヤムライハ様美人で目立つんですから目立たない格好をしてくださいってことです」
『そんなこと言うのヨナだけよ』
そんなはずはないのだけれど。
俺はシャルルカン様の思いが実るところを結局知らないので、まだまだかかるかなあ、とだけ思った。
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