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 俺は、現在通信機の前で頭を抱えていた。頭を抱えたところで向こうに伝わるわけがないのは百も承知だが、それでも俺は頭を抱えたかった。ちなみにこの通信機は今まで使っていた旧型のものではなく、シンドリア商会が売り出したものである。ヤムライハ様からいいから使いなさい、と送られてきたそれには、ヤムライハ様とジャーファル様の連絡先が入っていた。これで連絡しろ、ということなんだろうなあ、と思いながら、結局俺は一度もそちらの呼び出しは使っていないのだが。
 話が逸れた。
 流石にタダではもらえないと言って、俺が代金分の貢物をヤムライハ様に送ったのもまた、話が逸れてしまうので置いておいて。
「ヤムライハ様、無茶ですよ…」
『そこをなんとか!』
「なんとかって言ったって、もう屋根が三つ吹っ飛んでるんですよ? 俺の信用貯金なくなりそうです」
『元奴隷商人に信用貯金がある方がおかしいのよ』
「正論言わないでください!」
本日の用件は、新しい魔法道具の実験である。これまでにも協力して欲しい、忌憚ない意見が欲しい、と言われて手伝ってきた。俺としては最新の魔法道具に触れられるし、従業員たちにあれこれの意見を言わせる場にもなるから、断る理由がなかったのだが。
 ここへ来て初めて、俺はそろそろ断りたい、と思っている。
「なんでものをあっためる魔法道具が、屋根を吹き飛ばすんですか…! 危なくて俺しか触れませんよ」
『熱魔法を使ってるからだと思うのよねえ…。ところでヨナ、怪我してないわよね?』
「してませんが…そういう問題ではなく…」
今試しているのは所謂電子レンジみたいな魔法道具だ。名前が何になるかは知らないが。そろそろ町の人の目が痛い。そりゃあ短期間で三回も屋根を吹っ飛ばしていれば、何をやっているんだ、と思われるのも仕方ないと思うが。俺が悪いんじゃないのに、と今回は正直にそう思った。俺が悪いんじゃないのに。
『地質調査してあげたじゃない』
「そ、れを…言われると弱いんですけど〜………」
ヤムライハ様による地質調査で、マイエ商会はゾーダン石の採掘に着手することが出来た。そして、それにさまざまな加工をして売っている。土地の利権はもともと握っていたし、加工技術でも特許を取れたものだから、そりゃあもう儲かっていた。儲かりすぎて、随分な予約待ちを作っている状態だ。まあ、あまり急いで採掘して調査結果を覆すようなことになるのは嫌だったし、他の商品についても検討したかったので、ある程度客を待たせるのはそう悪くない状況ではあったが。
『マグノシュタットへの編入も都合してあげてるでしょ?』
「それも言われると弱いんですが…!」
魔法の才のありそうなこどもは、そこそこいた。これまではマグノシュタットまで送るのは危険が伴うと思って、本格的に学ばせることが出来なかったのだけれど、ヤムライハ様が学長になったのであればそこのところは安心だ。ヤムライハ様に、そういえば次学期辺りにうちの所属のこどもが入学する予定です、とちょっとこぼしてみたら、あれよあれよと言う間に特別措置を取ってもらえたのだった。まあ、特別措置とは言っても、ヤムライハ様と時々お茶をするくらいだけれど。商談の場を見学させてあげる! と言われて、それは流石に機密が過ぎます! と必死で止めたのは記憶に新しい。
 そういうわけで、俺は今、本当にヤムライハ様に頭が上がらない状態なのである。前からそうだった、と言われればそうかもしれないが、前にも増して。
「せめて長時間加熱をすると火柱が立つところをどうにかしないと…安全面が終わってますし、俺も次の試作品を試せません」
『まあ、それはそうよね』
取ったデータ貰ってからもう一度考えるわ、と言われてホッとする。短時間の加熱であればそこそこ普通に動くので、あとクリアすべきはその点だけだった。流石に爆発するものを全国のご家庭には売りつけられないだろう。以前だったらしていたかもしれないが、残念なことに今の俺は真っ当な商売をしているので。
『ところで』
 本題は終わった、とばかりにヤムライハ様が声を上げる。
『ヨナ』
「はい」
『ジャーファルさんとは連絡取ってる?』
「取ってませんよ」
『え、そうなの?』
「だって、連絡取るような用事もないですし…」
『まだそんなこと言ってるの?』
申し訳ないが、ヤムライハ様にだけはそういうことを言われたくない。いちいち連絡取るような用事でもないことでも連絡しているだろうシャルルカン様が流石に可哀想だ。…まあ、あっちはあっちでちゃんと告白していないから悪いような気がするのだけれど。この人は本当にすごくにぶいみたいだし、それに追加してシャルルカン様のことは弟か何かだと思っているようだったし。いや、そうやって言い出したら俺だって別にジャーファル様に告白したわけでもされたわけでもないのだ。別に連絡取らなくてもよくないか。
「………だって、ジャーファル様、忙しいでしょう」
『そうだけど、流石にヨナからの連絡なら取ると思うわよ?』
「俺は仕事の邪魔をしたわけではないので…」
『ジャーファルさんなら邪魔だなんて思わないと思うけど』
 それは、多分、ヤムライハ様の言うとおりだった。でも、やっぱり死ぬほど忙しいと分かっている人に、用もないのに連絡することは出来ないわけで。
『ジャーファルさん、ヨナから連絡もらったら喜ぶと思うけど』
「………」
俺は、一瞬言葉に詰まって。
 絞り出すような声で、なんとか、そんなことないですよ、とだけ言ったのだった。




















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