ひまわりの幻想
私に価値はない。
この牢獄で思うことはそんなことばかりだった。ただ私に許されたのは微々たる食事と、時折やって来るお偉いさんらしいその人の、機嫌を損ねないように気を張る、だけ。自由なんてない。生まれた街にはきっと戻れない。手枷に足枷、舌を噛まないようにされて、でもずっと口を閉じておくことも出来ないように、なんてよく考えてある。
スパイ、なんてものではなかった。ただ、逃げ遅れただけ。私は私の家族が死んでいく様を魅せつけられて、そして、囚えられた。叫ぶ軍人たちの中から出てきた一人の男。
―――君、いいね。
そんな言葉で。
―――たすけてあげる。
これの何処が、助け≠ネのだろう。私は何度問うてみても分からなかった。彼の中では一体、何が起こっているのだろう。
私を囚えた男は時折牢獄にやってきて、そして私に悪戯をした。閉じられない口の中に舌を忍び込ませて、そしてぼさぼさの髪に隠れた耳をくるくるといじっていく。
「きもちいいんだ?」
だら、と唾液が零れると男は笑った。
「人間って浅ましいね」
まるで自分が人間でないような言い草だ、と思ったけれども彼を睨むことはしない。
犯されることがなかったからかもしれない。死にたくないという気持ちが消えることはなかった。毎度毎度高められるだけ高められてそのままなんて、女としては最悪の気分だけれども。
「だいすきだよ」
この馬鹿馬鹿しい台詞を聞くと、どんな顔をして良いのか分からないのだ。
「君もいつか、僕と一緒にひまわり畑をつくろうね」
こんな極寒の地で、ひまわり、なんて。馬鹿なのだろうか、と考えてから、それ以上考えるな、と私は私に警告を出した。
男については何も知らなかった。何も知らない方が良いと思った。どうやらこの国の重要人物であろうことは分かるけれど、それだけで良かったし、分かったからと言って私が何を許すことも、彼を愛することもないだろうと思った。
ただひまわり畑で走り回る、彼の想像だけがずっとずっと離れなかった。
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