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 分かるものだな、と思う。
 俺は世界の在り方だとか、まったくもって日常触れることなく生きていたから、もしかしたら異変が起こっても気付けないんじゃないか、と心配していたのだが。どうやら俺はこの世界の異物として、その変化に気付けるように出来ていた、らしい。昨日までと同じ、でも少しずつ、違う。魔法でも何でもない、昨日と少しずつ世界がズレてしまったような、そんな感覚。この世界に来たときでさえこんな疎外感は覚えなかったのに。そう思いながらも、俺には結局、どうすることも出来なかった。
「先生?」
従業員見習いのスラウが顔を上げる。
「何か、悩み事?」
「うん? ああ、天気が変わるかなって思って」
「それなら、大丈夫だよ! まだ雲が向こうの方にいるし、風がえーっと、こっちじゃあないから、大丈夫!」
「そうですか。天気には詳しいんですか」
「うん! ええとね、船の仕事、したことあるの! それで、覚えた!」
「それは…いい経験でしたね」
天候が読める、というのは良い特技だ。大抵のことが魔法道具でどうにかなるこの世界でも、やっぱり自然現象に立ち向かうには随分な労力が必要だ。だから、きっとスラウが望むならば良い職に就けるだろう。
 そうは思っても、俺は楽観的になれなかった。
―――本当に、
この先に、俺の知っている未来が、世界が、訪れるのだろうか。
 鳥のさざめきが遠くなるような世界で、俺はたった一人、もしかしたらこのまま死んでいくのかもしれなかった。

 こどもたちの様子が少しずつ変わってきてからすぐに、同時中継があって、俺たちはとんでもない議論の様子を見せられた。まあ、とんでもないと感じているのは、此処では俺だけかもしれなかったけれど。ジャーファル様が涙まで流して賛同しているのに、俺の心はまったくもってこれっぽっちも動かないのだった。これなら正直シンドリアで名前を聞かれた時の方がよほど動いた。当然、名前を聞かれた時になんてジャーファル様への警戒心くらいしかなかったので、これは厭味である。…その、厭味も。こぼせる相手は何処にもいないのだけれど。
 その夜には、ジャーファル様から連絡があった。
『こちらに、来てはくれませんか』
「スケジュール組めないので無理です」
その誘いの意味を俺は分かっていたけれど、元から用意してあった言葉で断る。
『どうしても、無理ですか?』
「無理です」
言い切った俺に、それ以上の言葉は無駄だと分かったのだろう、小さく、息が吐かれる。
『きみは、』
「はい」
『まだ、応えてくれないんですか?』
「…はい」
ルフに還るのに? とは聞かれなかった。俺の気持ちと、ルフがどうのこうのやら世界がどうのこうの、というのは違うものであって欲しかった。…ジャーファル様が、そうやって思ってくれているかは分からないけれど。
 ルフに還るということは、一度完全に死ぬということ。
 もう流石に詳しくは覚えていないが、あの感じだとそのまま生まれ変わる、ということはないのだろう。一度死んでルフに還ったら、そのルフがまた世界を循環していくのに任せるしかない。そのルフたちが人間になるのだとしても、それは新しい$l間であって、今此処にいる俺たち、ではない。
―――分かっている、
それくらいは、分かっている!
「ジャーファル様」
それでも、俺は呟くように、祈るように、その名を呼ぶのだ。
「もう少し、待っていてください」
どれだけこの選択が愚かで、ひどいものであっても。俺が俺のまま、このひとがこのひとのまま、このひとに、ジャーファル様に、好きだと伝えられるように、誰もどうなるか分からない贅沢な未来を一緒に待ってもらいたかった。
「………嫌じゃ、ないなら、ですけど」
『そ、それはないです!』
「本当ですか?」
『本当です』
本当ですよ、と繰り返される。俺がこんなにひどく、嫌なことを言っているのに、その声は何処までも優しい。
『待ちますよ』
 ジャーファル様からしたら、もうこの先、ジャーファル様としても俺としても、同じ存在として向き合えない世界がやってくるのに、俺は未だ駄々をこねているようにしか映らないだろうに。
『きみが、ちゃんと答えを出せるまで、待ちます』
―――ああ、
と、思う。
 ジャーファル様がこれだけ優しくしてくれても、俺にルフに還ることを何も言わないでいてくれても。
『だから、その時が来たらちゃんと聞かせて』
俺の選択を、尊重してくれて、も。
「…はい」
俺は、ジャーファル様のそばにはいられなかった。
 きっと、そばにいたら外聞もなく泣いてしまうから、そんなことは出来なかった。



















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