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 何を話せばいいのか分からなかったから、とりあえずジャーファル様に話したのよりもっと掻い摘んで話すことにした。あとは適宜聞いてもらうという形で。
「ええと…」
アラジンが頭を抑えてから、呟く。
「だからおにいさんのルフは、なんだか…っなんだか…? こう………こう………?」
表現が見つからなかったのか、手がわさわさと動かされた。パンでも捏ねているみたいだ。
「うにうにしてるね…?」
なんでそんな言い方されなきゃならないんだ。
「ヤムライハ様は不安定って表現してました!!」
「ヤムさんのこと知ってるのかい?」
「い…ちおう、魔法の師匠です。俺はルフがこんなですから、真面な魔道士にはなれないんですけど」
 咳払いをして、話を戻す。ヤムライハ様との関係は、とりあえず今は置いておいていいだろう。俺はうにうにしてるルフとか言われたくなかっただけなのだから。
「俺のルフが不安定なのは、多分、俺がこの世界の人間じゃあないからです」
「おにいさんの世界には、ルフはないのかい?」
「魂、という呼び方はありましたが、それくらいだと思います。その構成単位については、少なくとも俺は聞いたことはありません。自然の構造…? システム? なんかは大体同じなので、そこまで乖離しているわけではないと思うんですが…」
「じゃあ、魂を見る人もいなかったのかい?」
「ええと…一応、自称で見える、と言う人はいました。ただ、俺は見えない方だったので、それが本当かどうかは分かりません。俺のいた…世界、では、そういうものの半分くらいは脳の誤作動として証明がされていたりもしたので、そもそも信じてる人がそこまで多くなかったと思います」
「そ、想像も出来ない世界だね…」
脳の誤作動…とアラジンが呟く。当然のように見えているものを、脳の誤作動で存在しないものなのだと言われたら、まあ、こんな反応になるとは思う。でもそうだったのだから仕方ない。
 もとの世界に、もし魔法というものがあったとしても、それは誰もが知る奇跡ではなかった。とてもとても、生活に組み込めるものではない。だからこそ、科学が発展した、というのもあるのだろうけれど。
「というか、待って!?」
「はい」
「じゃ、じゃあ、つまり、おにいさんのルフは本当はルフじゃあ、ないってこと…!?」
「あー…えー…多分、そうですね。近い働きに置き換えられてるっていうか、そんな感じだと思います」
「待って待って待って」
意外と忙しい仕草をするなあ、と思う。なんだろう、でもうざったらしい感じが全然ないのは、アラジンがこうやってこの世界を漫喫しているのが伝わってくるからだろうか。
「じゃあ、おにいさんはこの前のルフの書き換えのとき、書き換えられてなかったってこと、かい…!?」
アラジンの言葉が終わるより先に、思い切り引き寄せられた。
「ジャーファル様」
 そんなことをするひとに心当たりは一人しかいないので、俺は見もせずに呼ぶ。
「痛いです」
「無理です」
「いやまだ痛いって言っただけなんですけど…」
「無理です、離せません」
余計に力を込められた。流石に苦しいのだけれど。思い切り俺の背中に顔を埋めたまま、ジャーファル様が言う。いくらジャーファル様とは言え、そんな状態で出す声はくぐもったものになっていた。
「そうなんですか」
「あー…はい、そうですね」
「だから、きみはあの時パルテビアに来てくれなかったんですか…?」
「あ、いえ、普通に忙しかったからですけど。知ってます? ゾーダン石、未だに予約半年待ちなんですよ。世界これだけ変わっちゃったのに。信じられます?」
「信じられないのはきみが一人でいるのが当然だと思ってることですよ!!」
そうかなあ、と思ってアリババくんとアラジンを見遣れば、そうだよ…、とでも言いたげな顔をされた。どうやら俺は少数派らしい。アリババくんに至ってはドン引き、みたいな顔をしている。まあ、彼もモルジアナといろいろあっただろうから、思うことがあるのかもしれない。でも俺はルフの書き換えが起こったところで、大してジャーファル様と会話したわけでもなかったし、あんな世界でも待っていてくれる、と言ってもらえただけで充分だったのだけれど。
「…怖かった、んじゃないですか」
「………さあ、どうでしょうね」
「なんで誤魔化すんです!?」
「誤魔化す程度のことなんですよ、さして重要でもない」
これは強がりでも何でもないのだ。だから、そろそろ離して欲しい。
「貴方がこうして此処にいるんですから、俺があのとき何を思ってたかなんて、些事なんですよ、些事」

 ジャーファル様が落ち着くのを待ってから、アラジンがお茶のおかわりを出してくれた。やっぱり美味しいなあ、と思ってアリババくんの方を見る前に、アラジンが話の続きへと戻ってしまう。
「シンドバッドおじさんは知らなかったのかい?」
「知られないように努力してたんですよ………シンドバッド様は俺の故郷が暗黒大陸にあるんだと思ってたみたいですし、それに乗っからせてもらったんです」
実際俺のしていた生活も、ものすごく福利厚生を得られるようなものではなかったのだし、この世界の何処かまだ見つかってない場所、と思う方が感性としては正しい。科学の話も、俺は極力しなかったのだし。まあ、図鑑だとか教科書だとかの知識は、口が滑ってシンドバッド様に伝わってしまったけれど、それくらいだ。
 未開の地ではルフが見えなかったり魔法が使えなかったりする、というのはそんなに突拍子もない考えてはないと思うし。ファナリスのこともあったから、まったくもって違う生活をして違う生態系を持っている、というのも正直頷ける。
「でも、どうして黙ってたんだい? シンドバッドおじさんだったら、そんな突拍子もない話でも信じてくれると思うのだけれど」
「信じてくれそうだったから、ですかね」
そうだ、多分、シンドバッド様なら信じてくれた、と思う。俺がどんな意味不明なことを言っても、理解しようとしてくれたと思う。そして、それを世界平和のために使えないかどうか、と考えただろう。
 そういうところは、わりと好ましいと思っていた。俺には逆立ちしたってそういうことは出来ないから。いや違う、これはあくまでも比喩であって俺だって逆立ちくらいは出来る。なんならそのまま回ることだって出来るしバク宙だって出来るのだ。周囲の人々の身体能力がとんでもないことになってる所為で目立たないだけで。
「俺は、自分の身に起こった出来事が、どれだけあり得ない出来事かこれでも分かってるんです。誰だって疑って当然の、よく分からない出来事。寧ろ、誰かに疑ってもらった方が、あり得ないという証明になると思っていました」
「それは…そうだね? 僕たちも正直、まだ信じられてないし…」
「それが正しいと思います。シンドバッド様やジャーファル様がおかしいんです」
「ジャーファルおにいさんは信じたの?」
「恋人がやっと話してくれた秘密ですよ? 信じるでしょう」
「この人はちょっと今なんか違うところにいるので置いておきます」
とにかく、と話題を戻す。ジャーファル様は落ち着いてとりあえず離れてくれたが、なんとなく抱きつく機会を窺っているように見える。そういうのは帰ってからにして欲しい。せめて人前でやらないで欲しい。
「誰も信じないだろう、ってことが、多分俺の支えだったんです。自分でも捻くれているとは思うけれど…。だから、誰にも信じて欲しくなかった。でも、俺が真面目にこんな話をしたら信じてくれるかもしれない人たちが周りにはいて…なので、俺は誰にも何も言わないことを選んだんです」
俺の言葉に、アラジンは思うところがありそうな顔をした。アルマトランのことを話すとき、アラジンもたくさん悩んだのだろう。自分がこの世界の誰とも違う存在であることを、この世界の未来を優先して話した。…俺の、選択とは似ても似つかない、すごい選択だ、と思う。
 アラジンは彼らに受け入れられないことを恐れたけけれど、俺は逆だった。当然あり得ないことが、あり得るかもしれないとして受け入れられる方が、怖かった。そうして、世界の大きな流れに自分の手が加わって、よくない方向へと行ってしまうことが怖かった。
「それに、結果論ですけど…」
俺は、まるで他の世界との対話の話なんて初めて聞いた、とでも言うように続ける。
「あのときシンドバッド様にこれを伝えてたら、もっと面倒なことになっていた気がします」
「それは…確かに…」
「アラジン!?」
「だって、考えてもみてよ! あのとき初めて、みんなで他の世界について話し合ったから、シンドバッドおじさんがコミュニケーションをまず取ればいいんじゃないか? って言い出したんだよ! コミュニケーションが最初から取れるかもしれないって分かってたら、あんなふうにはならなかったと思う!」
「い、言われてみれば…?」
 そのままアリババくんとアラジンは論戦に縺れ込んだため、俺はやっとお役御免になった。
「ジャーファル様」
「…なんですか」
「このお茶美味しいです」
「………買って帰りましょう」
「はい」
暫く、俺たちは二人を眺めながらお茶を啜っていた。




















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