観賞用青年
マネージャーとして働く桐皇男子バスケ部の部室をとりあえず見えるところだけ掃除して、ゴミをまとめて校舎裏に持ってきた尾張翔月は、運悪くその場面に遭遇してしまった。
桐皇男子バスケ部主将今吉翔一と、女子生徒。空気的に告白、ではなさそうだ。寧ろ、その逆のような。とりあえず校舎の影に引っ込んで聞き耳を立てる。
「な、何で、突然そんなこと…。私、何処かだめなところ、あったの? 言ってくれれば直すから…別れるなんて言わないで…」
女子生徒の方が縋っている模様。我らが主将は罪な男である。
「いや、何処がだめとかやないんや」
「じゃ、じゃあ…!!」
「デートしたし、手も繋いだし、キスもした。自由になる時間は殆ど君優先にしてやったし、セックスかてしたやん。もう充分やろ?」
今日もいい天気ですね。それと同じくらい躊躇いなく吐き出された言葉に、女子生徒が硬直する。
「恋人ごっこは終いや」
大きな目に涙をいっぱいに溜めた女子生徒が駆けて行く。どうせフラれるのなら、一発ビンタかましてやれば良かったのに。そう思いながらゴミ袋を握り直す尾張。このまま此処で隠れていようか、それとも恰も今来ました、みたいな顔して出て行った方が良いのだろうか。
「もう出て来て良えで?」
…どうやら、選択肢は一つしかなかったらしい。
よいしょ、とゴミ袋を意味もなく再び握り直して出て行くと、我らが主将はひどくご満悦の様子で尾張を見ていた。鬱陶しい彼女とおさらば出来てすっきり、って感じだろうか。ひどいものである。
「幻滅したか?」
「はい?」
とは思っていたものの、その投げ掛けには思わず聞き返していた。
幻滅。
別にこの場面では可笑しくもなんともない質問だとは思うし、向こうも一応マネージャーである尾張の顔くらい認識しているだろう。だけれども幻滅。幻滅、と問われると。黙っている尾張に何を思ったのか、その人は幻滅の意味知らんの、と重ねてきた。流石にそれくらい知っている。
「大丈夫です、幻滅の意味くらい分かってます。で、ええと、幻滅したかどうかですよね。特に別に、って感じです。ゴミ捨てたいんですけど」
「あ、貸しぃ」
「あ、すみません、主将にゴミ捨てとかさせちゃって」
ゴミ袋を渡すときに少し手が触れたけれども、それでどうこう言う尾張ではない。
が、どうやら今吉の方はわざとそれをやったらしく、こてん、と首を傾げてみせた。凡そ高三生のやる仕種ではないと思うのだが。
「君、ワシのこと好きなんちゃうの?」
良く練習中にあっつい視線くれるやろ、と言うその人をうっかり笑い飛ばしてしまった。
「す、すみませっ、笑うつもりは…ふ、なかったんです、けど」
何とか笑いを噛み殺して続ける。
「何て言いますかね、そりゃあ顔はドストライクっていうくらい好みなんですけど、あまりにもドストライクすぎて見てるだけで充分なんですよね。謂わば観賞用なんです」
人にこんなこと言うのもアレだとは思うが、それは相手がゲスなところで勘弁してもらいたいところだ。
「なので、その、別にさっきのを見ても幻滅とか、してないんですよ。あ、主将が黙ってろっていうなら黙ってますけど」
「んーじゃあ、黙っといてもらおうかなぁ」
「分かりました。じゃ、私仕事あるんで、お先に失礼しまーす」
「おん。また部活でな」
「はい」
駆け出す。ゴミは捨てたのだし話は終わったのだから、もうこんなところに用はない。桐皇バスケ部の部員数は多いのだ。故にマネージャーの仕事も多い。こんなところで油を売っている余裕はないのである。
「観賞用なぁ」
一人になった今吉が呟く。
「そんなん言われたん初めてやわ」
舌なめずり。
「あかん、興味湧いてもーた」
覚悟してぇな?
prev /
next
ブラウザバックor戻る
ALICE+