相応の罰というもの
ん、上ずった声が隣からあがる。
「鳥吉、さん…」
「克徳さん、煩いです」
台詞が聞こえません、静かにしていてください。そうテレビから視線を逸らさずに言えば、隣に座る彼から恨みがましい視線が突き刺さるのを感じた。しかし、絆されてはならない。丁度見たかった映画がロードショーされているというのも勿論あるのだが、首をぐっと固定してそちらを見ないようにする。全神経をテレビに集中させて、艶めいた声さえもシャットダウンである。まるでこれは負けられない戦いだとでも言うような表情の鳥吉と、息のあがった状態で居心地が悪そうに落ち着かない原澤。どう見ても可笑しな状況である。
それを破ったのは、鳥吉の方だった。
「良いですか、克徳さん」
CMに入った画面からやっと目を離して、隣のその人をきっと睨み付ける。予想通り耳まで赤くなった顔で、その目を潤ませてこちらを見ている様はなかなかに扇情的で、うっかり口角がにんまりとしてしまわないように、ぐっと力を込めなければならなかった。
「私、怒っているんですよ」
嘘、とは言わないが正直もう半分くらいどうでも良くなっているのは事実である。
「そ、れは、分かっています。あれは、全面的に私に非があり、ます」
「当たり前です」
まぁ、あくまでも半分くらい、という話だが。
事の発端は一週間前まで遡る。夜景の見える、とは言わないけれどもそれなりにお洒落なレストランで夕食の約束。それを有り体に言えばすっぽかされたのだ。まだ仕事であったとか、道路が混んでいたというならば情状酌量の余地はある。というかそういう理由であるならば鳥吉とてこんなに怒ることもなかっただろう。ただ単に、克徳は忘れていたのである。鳥吉と約束したこと事態を。まるまるそのまま、ぽっかりと。
勿論、悪気があってのことではないと分かっている。しかし、悪気がなかったからと言って許せる訳ではないのだ。
言うまでもないことだが、鳥吉が怒っているというこの状況に先に根を上げたのは克徳の方だった。曰く、何でもするから許してください、と。それに返す言葉は一つである。
「何でも―――良いんですね?」
「ですからこれは謂わばお仕置きなんです」
冷たい表情のまま克徳を見上げる。
「それを隣からあれこれ言われたらお仕置きにならないでしょう?」
「ですが、その、ん…ッこんな、の…」
「お忘れですか? 何でも、と言ったのは克徳さんの方ですよ?」
ずっと手の中に握っていたリモコンの、小さなツマミを弱から強へと移動する。ひ、と克徳の喉が鳴るのを聞きながら、尚も冷たく続けた。
「私聞きましたよね、何でも良いんですか?と」
だからこそ、本来ものを入れるべきではない仮にも内臓であるそこに、ぶるぶると細かに振動する所謂大人の玩具なんてものが入っているのだ。何故そんなものが手元にあるのかとか、何故そんなことがすんなりと出来てしまうのかとかについては、良い子の皆さんは知らなくて良い事実である。
「それは、そう、です、が」
「まだ言うんですか?」
「だって、」
もう限界です、と鳥吉よりも大きな身体が縋り付いて来る。
「映画、」
「録画してあるでしょう」
「ですけど、」
「ねぇ、鳥吉さん」
耳元で囁かれる。
―――こんな機械より、鳥吉さんに、シて欲しいんです。
生ぬるい低音がその潤んだ声にいっとう艶をかけている。
「…何処で覚えたんですか、そんなの」
「何を、言います。貴方が、仕込んだ、のでしょう」
大きくため息を吐く。
もう、怒りは治まっていた。
for 鳥吉さん
#私の嫌いなもの食べ物当てたら小説を献上します
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