どうか貴方の世界で一番にして



 ベイリー・ホークショー。その名前が出た瞬間から上司であるホッチの眉間の皺が深くなったのをモーガン以下チームの全員が察していた。けれどもこういう時に率先して聞きに行くような奴はいない訳で、結局モーガンが代表して聞くことになってしまった。
「なあ、ホッチ」
「何だ」
「ホークショーとは知り合いか?」
機嫌が急降下したのが分かった。これはストラウスに無茶を言われた時よりもひどい。それでも今は仕事中だからこのチームのボスはしっかりと応える。
「ああ」
「どういう、っていうのは聞いても?」
「名前をつけるような関係じゃあない」
「好きなのか」
「それ以前だ」
以前、という言葉を使ったということは、それから先があったはずだったのだ。
 モーガンは首を振ってから、なあホッチ、と話し掛けた。彼が行く必要はない、他の面子で事足りる。
「彼女はプロファイルにあう」
「ホッチ」
「行ってくる」
「行ってくるって、」
 それ以上は言わずに歩き出したホッチを追いかける。
「オイ、待てってば、ホッチ!」
それでも止まりそうにないので、犯人の場所が分かったから行くぞ! とモーガンが全員に声を掛けたのだった。



 扉は開いていた。
「ベイリー・ホークショー」
いつものように銃を構えた状態でホッチは彼女の名前を呼ぶ。その後ろからはモーガンがついていった。家の裏から残りのメンバーが回っている。アーロン、とホークショーが呼ぶのは慈愛に満ちていて、ああやっぱり恋愛関係に至る過程にあったのだ、と思う。少なくとも彼女はホッチのことが好きなのだろう。
「今日は、いつもの用事ではなさそうね」
貴方、私のことフルネームでなんて呼んだことないもの、と彼女は言う。
 普通の女性に見えた。けれどもそれは大抵の殺人犯に言えることだ。
「君に、殺人容疑が掛かっている」
「貴方の話を聞くの、結構楽しみにしていたのよ」
「君には黙秘権がある」
「貴方の所為で人を殺せなくなったの」
「供述は法廷で不利な証拠として用いられることがある」
「貴方の所為よ」
「君には弁護士の立会を求める権利がある」
「あ、証拠はその抽斗の中」
「もし弁護士を依頼する経済力がなければ国選弁護人を付けてもらう権利がある」
「だから責任取ってね?」
噛み合わない遣り取りのあと、一つ頷いて、ホッチが手錠を掛ける。それに満足した彼女は笑って、それからやけに納得したような表情をするから、遣る瀬無くなった。抵抗されたり目の前で死なれたりするよりはマシだし、大人しく捕まってくれて良かったとは思うけれど。
 ただ、ホッチはそれに納得しなかったらしく、彼女の耳に唇を寄せて、
「―――」
何事が囁いた。それからモーガンにホークショーを押し付けて、さっさと行ってしまう。あああああ! と泣き叫びながら崩れ落ちる彼女に、モーガンが何をしてやれることもなかったし、一体何を言ったのか大体見えていたけれども、追い打ちを掛けてやる趣味もなかった。





本当に大事なことは言わないで余分なことは言うのね「好き」とか / 栞


















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