さようなら、百万回愛した人



 結局、どうして好きだったのだろう、と思う。妻子がいて、上手く行っていなくても彼なりに家族を大切にしていることは分かっていたし、私がその間に入るつもりもなかった。
 そう、なかった。それは、私に常識が備わっているからだと思っていたのに。
「ホークショー?」
驚いたように呼び掛けられる。
「何かあったのか? こんなに遅く」
「少し、調べ物をしていただけ。仕事のうちよ」
「そうか。それはお疲れ様」
 きっと前の私だったら此処で彼を引き止めた。ちょっと一緒に飲みにでもいかない? なんて言って。愚痴に付き合って欲しいの、なんて…言って。でも今の私はそれをしない。彼はもう奥さんと別れてしまって、もう会えなくなってしまって、此処が慰め時、傷心につけこむなんて誰だってやっていること。捜査官でも例外じゃない。分かって、いるのに。
 私は動かない。
「ホッチナー」
「なんだ?」
「いえ…ええと、お疲れ様」
「? ああ、お疲れ様」
 私が愛していたのは、きっと、妻と子供に愛されている彼だったのだろう。



紫陽花夜想曲 @loveisblind0vr


















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