そんなこんなで尾形さんがこの病院に怪我でも病気でもないのに通ってくるようになって数週間が経過していた。
「監視だよねえ」
「それもないとは言えませんが、一応警護の割合の方が多いはずですよ」
「これからの流れの予想をしておこうか?」
「どうせもう決まっているんでしょう」
好きにしてください、と八雲が言う。僕はそんなことを思っていないくせに、と思う。言わないけれど。
 思ってもいないことを言っているのは、誰よりも八雲自身が分かっているはずだ。僕はそれが分かっているから余計なことは言わない。余計なことを言って彼女の心を乱すのは医者がやるべきだ。僕は彼女の医者じゃない。まあ、そもそも彼女の医者が存在するかと言うと、しないのだけれど。面倒な話だ、やっていられない話だ。…よくある、話だ。八雲は既に話は終わったとばかりに備品の確認をしていた。こういう仕事は得意なようだが、やはりまだ治療、となると粗が目立つなあ、といつもの彼女の行動を思い返す。今日も包帯の巻き方が若干目についた。注意するほどでもないのがまた、微妙なのだ。
 先述した通りに此処は小さな町医者だ。そういえばどうしてあの夜鶴見さんはこの病院を選んだのか、正直よく分からない。けれども知れば更に深みに嵌りそうなので黙っていた。沈黙は金なり。危ないと言われたことには近寄らない、これはとても大事なことだと思う。
「私、伊佐早先生のこと結構体格が良い方だと思っていたんですけどねえ」
 自分の机で医学書を読みながら思案していると、自分の名前が聞こえてきたので顔を上げた。
「伊佐早先生は結構体格良いと思いますよ」
八雲と話しているのは同じく此処の看護婦の香炭(かすみ)さんだ。旦那さんを亡くしたあと、女手一つで三人の息子さんを育て上げた女傑である。御本人はこの上なく温厚な方なのだが。
「まあ、あまり兵隊さんをじっくり見る機会なんてないですからね」
八雲に言われて、香炭さんはそうねえ、と呟く。そして僕を見る。
 見られたので僕は会話に加わることにした。
「尾形さんと並ぶと一回り小さくなったような気分になるなあ」
「ああー…」
「納得されるのも微妙なんだけど」
すみません、と揃って返されたが二人とも別に気にしてはいないだろう。僕も微妙というだけで気にしている訳ではない。
「背丈は…」
「僕の方が少しだけ大きいんじゃないかな」
「ええ…全然そんなふうには思えない…」
八雲の正直すぎる言葉に香炭さんが苦笑している。
「尾形さん威圧感あるしなあ」
あれはやはり、兵隊さんだからだろうか。単純に身体に厚みがあるというか、筋肉の付き方が違うが故の差のような気がする。
「先生はやっぱり、鍛えたんですか?」
「そうだなあ…。昔、本当に小さい頃…このくらいだった頃に、医者を目指すなら身体が強くなくてはならない! って父上に発破を掛けられて。その頃は鍛えていた…んじゃないかな?」
このくらい、と自分の腰くらいの高さを示す。
「でも気付いたら身体はそこそこ出来ていたからなあ」
「へえ」
 突然頭上から降ってきた声に、今更驚くことはしない。
「センセーは幼い頃から医者を志望していたのか」
「うわ出た」
「だから優秀なのか」
「尾形さん、医者の優劣分かるんですか?」
結構こちらの―――というか主に僕の、尾形さんの扱いなどは崩れていると思うのだが、この人は気にした素振りも見せない。
「伊佐早先生は優秀でしょう」
「まあ、腕だけは良いですよね。愛想があるかと言うとアレなんですけど」
「流石に八雲には言われたくないかな!?」
無愛想の塊みたいな八雲にだけは本当に言われたくなかった。


















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