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とうとう実害が出始めた。
一応護衛という建前があるのだから実害呼ばわりもどうかと思うが、それでも実害は実害なので仕方ない。なのでこれ幸いとばかりに須子先生にお願いしたら、対応したのは君だよね? と対応を丸投げされた。もう一度言う。丸投げされた。その時にぷつん、と自分の中の何かが切れたような気がして、そっちがその気ならこっちだって手段を選んでいられるか! と立ち上がることにした。
少々回りくどく言ったが早い話が、そのまま尾形さんに八つ当たりすることにした。
という訳で今日も職務に勤しむ尾形さんを捕まえて善良なる一般市民である僕は仁王立ちをしていた。当たり前のように尾形さんは特に気にしていない様子だ。というか、この人の心を動かすものというのはこの世にあるのだろうか。いや、そういうのはどうでも良い。僕はそもそも尾形さんに今後とも関わっていくつもりはこれっぽっちもないのだ。
「こういう聞き方はどうかと思うですが、尾形さんはいつまで此処にいるつもりですか?」
「あちらさんに聞いてくれ」
あちらさんというのはあの夜に治療した男の生命を狙っているという人々のことだろう。本当にそんなものがいるかどうかはさておき。これは会話の導入であるので尾形さんの返事の内容などどうだって良いのだ。
「あのですね、正直兵隊さんがいるっていうだけで、他の患者さんが萎縮してしまうんですよね。素直に護衛だなんて言えませんし」
ですので何か必要なんですよね、と僕は腕を組む。
「患者だと言えば良いだろう」
「それも考えたんですけれど、何を患っているとするのが一番良いのか」
日中ずっといる人が一体何を患っているというのか。架空の病をでっち上げるにしても方向性というものは大事だ。患者さんは既に萎縮してしまっているのだし、それを吹き飛ばすようなクスッとしてしまうものが良い気がする。いや、人の病状に関して笑うとかいけないことだと思うが。
そう、僕は既にここで何を言うか決めてある。これは八つ当たりであるので、わざとらしさが必要だ。だから僕はこれまでになく、わざとらしくわざとらしく、あっと声を上げて見せた。
「恋の病とか!」
流石に何言ってんだ、という目線が突き刺さる。
「………誰が、誰に」
「この場合尾形さんが患者さんになるので、尾形さんが誰かに、ということになりますね」
でも、僕も鬼ではない。だからあと一言くらいでさっさと切り上げようと思っていた。
「無難に八雲辺りにしておきますか?」
なーんて、と言うより先に尾形さんが口を開いた。
「年下は好みじゃない」
はい? と聞き返さなかっただけ僕は偉かったと思う。
「すみません、これ架空の病の話なんでそんな真面目に返さなくても良いんですよ」
「年下は好みじゃない」
どうやら譲れない部分らしい。
「ううーん…年上、と言うと…」
「婆さんは流石にない。既婚者も勘弁してくれ」
「いないんですけど!?」
結構注文が来る。八つ当たりのはずだったのに、もしかして見た目からは想像出来ないが結構愉快な人だったりするのだろうか。それならもっと早くに気付かせて欲しかった。
「あ、僕なんてどうですか? 尾形さんより年上で独り者で婆さんでもないですよ」
今度こそ! と思ったのにやっぱり、なーんて、と言うより先に尾形さんが口を開く。
「じゃあ、それで」
「えっ」
「何だ、嫌なのか」
「イエ…」
ここでいいえ以外を選べる人間がいたら今すぐ連れてきて欲しい。
でもまあ、八つ当たりは失敗しているものの、対策は完成している。もうこれはこれで良いのでは? 混乱していた僕はそう思った。ので笑った。
「じゃあ今日から尾形さんは僕の患者さんですね」
多分、良い笑顔が出来たと思う。
勝負に勝って、試合に負けたような気分だった。
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