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その色はいつだって絶望に彩られている
とある雨の日、血だまりの中でせせら笑う白を見た。今にも死にそうな三花を、まるで面白いものでも眺めるように息を吐いた、まるで死を擬人化したような白。
「まァ暇つぶしにはなるやろ」
独り言。軽々と、もう力さえも入らない腕を掴まれ持ち上げられその目の高さに持って来られる。宙ぶらりんに揺れる身体が、玩具のようで馬鹿馬鹿しかった。雨の冷たさよりも、その手の温度のなさが気になった。
それが、糸吉三花と市丸ギンの出会い。
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それから十年。
三番隊隊舎にはその日も小さな影が動いていた。
「三花、お茶ァ」
「はいはい只今!」
きびきびと動くその影は自ら名前を呼んだ人に応(いら)えを返し、そのまま給湯室へと向かう。十年の歳月は既に死後のものとなっている三花の外見を少しばかり成長させていた。初めて市丸ギンに出会ったその当時の見てくれが、人間で言う三歳相当であるとすれば、現在の三花は五歳児程度には見える。もう死んでいるのに、どうしてまだ死にたくないなんて思ったのか、それとも二度目なんてまっぴらごめんだと思ったのか。三花には分からない。ただ分かるのは、この市丸ギンという男が三花を拾って、自分の家で育て、実質の親代わりになってしまったということ。
流魂街ではそんなこと珍しくなかった、家族が、本当の血の繋がりのない人々だなんて当たり前で、でもきっとこの人は瀞霊廷の中に住んでいるんだから違うと思っていたのに。
「君馬鹿なんやなあ」
疑問を言った三花に男は笑って、ただそれだけだった。
だから賢くなろうと思った。
いろいろな感情が渦巻いたけれども、ただひたすら腹立たしいというのが勝った。この男は三花を三花の同意なしに勝手に拾って来て更には時折口を開いたかと思えばにやにやしながら罵倒を二言三言落としていく。その声に言葉に温度はなくて、きっと三花が傷付いているなんて知ったこっちゃないのだろうけれども、それでも三花はその男を許したくないと思った。
あの時男が三花を拾わなければ、三花はあのまま死んでいただろう。死後の世界であるこの世界で死ぬことが一体どういうことなのか三花にはまだ分かっていないけれど、それでも生きているみたいな身体がある以上、死にたくないと思うのは仕方ないことなのかもしれない。男は死にかけの三花を医者に見せて看病して、それから至極当然の権利だと言うように、君、うちの子になるって決まったから、と言ってのけたのだ。
普通どんな態度をとられたとしても救ってもらった恩だとか、拾ってもらった恩だとか、特に衣食住なんてあれから困ったことはないのだからあって然るべきだし、まあその点についての感謝というか恩は感じている。が、感じているだけだ。改めて言葉にして言おうと思うほど感謝していないし、これまでの日々でそれは全部相殺されたと思う。それに、男だって感謝しろなんて言わなかった。多分、三花を拾ったことなんて忘れてるんじゃないのか。
一緒に住んでいても男は忙しいようで、あまり家にはいなかった。がらんとした広い家に一人で、一体何をすれば良いのか最初は分からなかったし、文字も読めなかったから本当に何もしていなかった。その頃に男の噂を聞きつけて家までやって来て、教育改善をさせていった男の幼馴染については感謝してもしきれない。
三花には専門の教師がつけられ、それ以外の時間は男の職場で過ごすことになった。それが護廷十三隊の三番隊の隊舎だった。
少しは成長したとは言え、外見はまだ小さな子供。出来ることは少ない。だから結局勉強をしながらお茶汲みやら軽い資料の移動だとか、そういう簡単な仕事を手伝っていた。
周りは大人ばかりで私は言ってしまえば流魂街の浮浪児で、親と呼んでいる人も家もちゃんとあったけれど、きっとこの壁の中では全部、おんなじで。
だから全部、無視することにした。三番隊のお茶汲み人形だとか言われても、気にしなかった。市丸ギンの稚児趣味という言葉に関しては調べたけれども、否定してやるまでもないと思ったので放っておいた。言われて笑われるだけで、特に何をされる訳でもなかったし。
今の三花に出来ることは賢くあること。悲しいことに今は殺生与奪をあの男に握られていて、三花にはそれをどうすることも出来ない。
あの日、男が言ったことを三花は忘れていない。あの男は暇つぶしだと言ったのだ。暇つぶしくらいにはなるだろうと、そんな軽い動機で、三花は生かされた、生かされてしまった。
だから生き残るしかないのだ。
例えこの先にどんな絶望が待っていようとも、この男が優しくなくても、三花は今、生きているのだから。
デフォルトネーム読み方
糸吉三花(いとよしこはる)(ドラッグ表示)
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