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「あの例の男の生命を狙っていた人間をこちらで捕縛した」
突然言われて一瞬何のことだったか考えてしまった。そういえば尾形さんはそういう設定で此処に来ているのだった。
「それとは別に、鶴見中尉からアンタを連れて来いと言われた」
何処がそれとは別なのだろう、と思う。何も別じゃない。
「おっ、とうとう殺される感じですか」
「………殺されたいのか」
「まさか!」
よしよし、いつもの調子が戻ってきた。最近負けを許しているような気がしたがこの件についてだけは絶対に譲ってやるつもりはなかった。こちらの命運がかかっているのだ。
「どうやら殺されないようですが一体何が?」
「分かっていることを聞くのは趣味が悪いんじゃないのか」
「そんなことはないですよ? 予測は予測でしかないのでもしかしたら間違っているかもしれないじゃないですか」
「間違ったことがあるのか?」
「今のところありませんが、だからと言って間違えない証左になるわけではないでしょう」
僕がそう言うと尾形さんはため息こそ吐かなかったが呆れて―――いや扱いにくいとでも思って?―――言葉を続ける。
「うちの病院、あるだろう」
「はい」
「そこも人手不足でな。中尉殿がアンタを推薦した」
「それはそれは」
予測圏内だ。それこそ真夜中の邂逅で引き下がってもらえなかったことで予測した通りになってしまっている。緩衝材とばかりに推薦・勧誘という行動を挟んだ辺り、本気度を感じるような気がするのだが一体何が目的なのだろう。
実のところ僕自身もそう優秀ではあるけれども、そこまでして引き抜きたいかと言うとそうでもないだろうし。出自も平々凡々、特に兵隊さんが何かしらに使えそうな切り札を持っている訳でもない。ならば須子先生や他の人だろうか、とも思ったけれどもそれにしては鶴見さんが来たのは最初の一回のみで、あとはすべてこの尾形さんを通して報告が行っているはずだった。尾形さんが僕の他に接触しているのを見たことがないし、院内も関係者以外立入禁止の場所が多いので尾形さんは殆ど裏の喫煙所に押し込まれている。あそこから何も見えるものがないのは須子先生のお墨付きであるし、よしんば尾形さんが何かしらの情報を得るために此処へ来ていたとしてもなかなか芳しくないのではないだろうか。…まあ、此処に探られて痛い腹はないと思うのだけれど。その辺りは僕は偉い人ではないので分からない。
まあ、真相が何であれ僕を引き抜く理由はやはり分からないのであったけれど。
「まずは相談ですよね」
僕がそう言うと尾形さんは珍しくその目を瞬(しばたた)かせた。その反応は完全に予想していなかったものだから流石の僕でも笑ってしまった。でもわかりやすく笑うことも出来ないので俯いて噛み殺しているとおい、と不機嫌に呼びかけられる。
「尾形さん、知っていると思いますけど僕、此処では結構下っ端なんですよ」
「…態度と地位が合っていないんじゃないのか?」
「尾形さんもそんな冗談言うんですね」
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