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 結果としてびっくりするほど簡単に行ってきなさい、と言われた。技術を盗んでこいだの経験を積めだのそりゃあもう言いたい放題だった。須子先生とその場にいた他の先生方が揃いも揃ってそんなことを言うので若者だと思って…! と思わず捨て台詞めいたことを叫んでしまったけれど、古狸たちに比べたら大抵若者だったし僕だって別に行きたくない訳じゃない。大きな病院になればそれだけ症例が揃うし、経験者だって多い。それは分かるし結構楽しみであるけれど、完全に手放しで言われてしまうと体のいい厄介払いをされたのでは? と疑心暗鬼にもなるものだ。そんなことはないと知っているけれど。
 そんな訳で鶴見さんに会いに行くことになり、承諾の旨を伝えるとそのまま先方へと挨拶に行くことになった。鶴見さんは仕事があるとのことで、引き続き尾形さんが着いて来ている。先に話は通してあるらしい。つくづく仕事が早いというか逃がす気を感じないというか。道が既に出来上がっているところをこうして歩かされて、疑問を持たない人はいるのだろうか。
 そうして尾形さんが開けてくれた扉の向こうにどんな顔がいるは実のところ最初から知っていた。
「えっ?」
「どうもー」
此処はこの病院の院長室であるので其処に座っているのはこの病院の院長になる。
「えっ…伊佐早先生…?」
「はい。伊佐早順玲です」
名前まで名乗ると呆然としていた院長はそこでやっと我に返ったように頭を抱えた。見ていて面白い。
「中尉殿の紹介と言うから身構えてましたけど………」
「お久しぶりですね、虚児(うろこ)院長」
ちなみに僕は此処の院長が虚児先生であることを知っていた。彼も僕がこの土地にいることを知っていたけれど、鶴見さんから紹介されるだなんて思っていなかったのだろう。
「まさか君だったなんて」
身構える方向を間違えた、と虚児院長は頭を抱える。そんなに頭を抱えられるようなことはやらかしてないと思うのだが、いやあ、人の気持ちは分からないものだ。
 虚児院長がじっとりとした視線を投げて寄越す。
「いつ知り合ったんですか」
「ここ二ヶ月ほどのことですよ。ねえ、尾形さん」
「………そうだな」
「えっ今の間何ですか」
「もう半年くらい経ったような気がしていた」
「…尾形さん、まだ感覚が戦争から抜けきっていないんじゃないですか?」
僕の言葉に尾形さんは何も言わなかった。代わりに虚児院長が脱線した会話を元に戻す。
「また、何で」
「人手不足ということで深夜に叩き起こされてからのお付き合いですね。治療した人が生命を狙われれいるとか何とかで尾形さんが護衛としてつけられてたんですけどまあ先日それがやっと解除になりましてこうして此処に来ることに」
「本当ですか、尾形さん」
「………本当だ」
虚児院長は僕のことが信用ならないらしい。否、別に僕が嘘を吐くと思っている訳ではないだろう。逃避場所を残しておきたいのだ。まあ、どっちにせよ本当のことなので尾形さんは肯定しかしないのだけれど。生命を狙われているだとか護衛だとかはさておき。
「それで伊佐早先生は承諾したんですか?」
「しました」
「また何で」
「人手不足云々は嘘じゃないと思ったからですね」
「そりゃあそうですよねえ〜!」
そう言ってから虚児院長はやっと普通の院長らしく戻ってみせた。
「では、伊佐早先生」
「はい」
「詳しい内容はどうせ鶴見中尉殿がどうにかすると思いますので。とりあえず、ようこそ我が病院へ。君の能力を存分に生かして欲しいと思います」
「はい。そのつもりです。よろしくお願いします」
虚児院長はこういうふうにしっかりして見せると、途端に威厳が出てくるから本当に羨ましい、と思いながら頭を下げると、しおらしい伊佐早先生は気持ち悪いですね…というひどい言葉を貰った。


















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