恋をして馬鹿になる君を見てるのが楽しい



 ふふん、ふん、ふふん、と口ずさむのはどうでも良いはな唄だ。それ自作? と聞かれてそのつもりだけどどうせこの世界の何かしらとは被っているんでしょう、と嗤う。彼はとても頭が良い。音楽でさえ、きっと一度聞けば彼の脳に刻み込まれるのだろう。
「…いや。僕の聞いた中ではそういうのはなかったと思う」
「あら、そうなの。珍しい」
てっきり誰々の何番目のシングルのうんたらかんたらと続けられるのだと思っていたのに、アテが外れたらしい。本当に珍しいこともあるものだ。
 私が驚いたような顔をしているのがたいへん珍しかったらしく、彼は身を乗り出した。
「もしも君が気になるのなら、覚えていて見つけた時に君に教えることは出来るけど」
「いいえ、いいわ。だって私、自分の作った歌に興味ないもの。明日には忘れてるわ。だから貴方が折角見つけてくれても私には分からないもの」
「でも僕は覚えてる」
「でも私は覚えてない」
世間の人が聞いたらなんて冷たい女だろう! と罵るのかもしれない。けれどもそんなのは私にとって子守唄も同然だった。
 可哀想な子供なんてたくさんいる。ただ単に私がそれに当てはまっただけであり、たまたま彼に目を付けられただけの話。なんでもない、偶然の話。
「貴方が興味を持つことに、私が興味を持つとは限らない。そうでしょう?」
「…うん。そうだね」
彼が肩を落とすのも、別に可哀想に思えない。けれども面白くはあった。
「ねえ、どうして貴方は私に会いに来るの?」
大した理由もないのに。
 彼はとても頭が良かった。だから私は彼に捕まったのだろう。そして、こんな檻の中にいる。今後の人生はどんなに退屈なものになるだろうと悲観していたものだけれど。彼は真っ赤になってしどろもどろになって、それからごにょごにょと何かしら言った。聞き取れなかったのでいいや、とまた嗤う。彼は慌てたように立ち上がろうとしてガラスに頭をぶつけた。
「私は逃げないのに」
逃げられないのに。
 貴方がぶち込んだ退屈な檻の中で、私はとても頭の良い貴方の観察をすることを唯一の生きがいにして嘲笑っている。



確恋
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