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 臨時という形でもこの病院に勤めることが決まって、僕は尾形さんがもう来なくなるのだと思っていたのだけれど。
「伊佐早先生」
同僚の先生が僕を呼ぶ。
「はい、何でしょうか」
「あの、受付のところに兵隊さんが来ていまして…」
「え」
「伊佐早先生に言えば分かるの一点張りで」
「ええー…」
 僕に兵隊さんの知り合いなんてものはそう多くない。まあ探せば恐らく同窓生とかいなくもないだろうが、大抵が内地の人間であるしこんな北海道までやってきてしかもこの病院を正確に見定めて尋ねてくるなどなかなか出来ないことかと思う。前置きが長くなったがつまり、今この時に僕を訪ねて来る兵隊さんなんて一人しか思い浮かばない。万一鶴見さんだったら兵隊さんとは言わないだろうし。
「行きます…」
「伊佐早先生って此処に来る前何してたんですか?」
「普通に医者やってましたよ。町医者です」
「伊佐早先生はほら、芋にいたんですよね」
「ああ、芋!」
「分かってますけど芋って言われるの微妙ですね…」
芋というのは愛称である。僕のいる病院の掲げる徽章がガガイモの花と葉とされているからだ。ちなみに僕には花の種類はよく分からないのでただの五弁の花と何かの葉にしか見えないのだが、院長である須子先生がガガイモと言っているのでガガイモなのだろう。
「あそこ、何ていうか…一目置かれていますよね」
「ええ、そうなんですか?」
「詳しいことは知らないんですけど、伊佐早先生、どんな病院なんですか?」
「どんなも何も、普通の病院ですよ」
まあ恐らく須子先生の関係で何かあるのだろうけれど、その辺りは暗黙の了解で探らないことになっている。知っている人はいるだろうが、僕は知らないということで通している。僕があの病院にいるのは先にあそこで働いていた医者の紹介でだったのだが、別に須子先生と知り合いという訳でもない。今だって顔を合わせれば会話はするものの詳しいことはよく知らないのだ。
「ええー。今度病気にかかった時に行っても良いですか?」
「別に、それは個人の自由ですけど。あそこまで行くんだったらうちで受けなさい、って怒られたりしないんですか」
「しますね…」
「するんですね…」
 じゃあなんか待ってるらしいので、と会話を切り上げて受付へと行くと、やはり思った通りに尾形さんがいた。
「どうしたんですか」
「待合室にいて良いものか気になってな」
「そんなことでいちいち呼び出さないでくださいよ…」
それこそ鶴見さんに言って話を通して貰えば良いのではないだろうか。それとも、今、尾形さんが此処にいるのは鶴見さんとは関係のないことなのだろうか。よく分からない。
「センセー」
「何です」
「院長に言っておいてくれ」
「まさかとは思いますけど今度はこっちに通うつもりですか」
「毎日は来れない」
「暇なんですか?」
「暇じゃあない」
「来なくても良いんじゃないですか」
 僕はてっきり何かしら言葉が返ってくるものだと思っていた。例えばそういう訳にもいかない、だとか。尾形さんからは暫く何も返ってこなくて僕の方が焦ってしまう。何かまずいことでも言っただろうか。
「………ええと、」
「―――」
「ああ、もう、分かりましたよ。一応尾形さんが来るってことは言っておきますから。でもそれで許可というかそういうものが出るかどうか分かりませんからね。此処、うちの病院より普通の人が入っちゃだめな場所多いんですから」
諦めてそう言えば、尾形さんは神妙に頷いて分かった、とだけ言った。


















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