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結局何だかよく分からないけれども尾形さんが病院に訪れることは容認されていった。此処が直轄の病院で兵隊さんという存在に一定の信頼が置かれているからなのかもしれない。僕はただ虚児院長になんか尾形さんがこう言ってました、理由は知りません、と言っただけだった。もしかしたら僕の知らないところで鶴見さんの援護射撃だとかそういうものがあったのかもしれないが、その辺りは僕の与り知らぬことである。
そうして半ば公認の存在と成りつつある尾形さんは僕と虚児院長がひっそりとやっていたおやつに乱入して来ていた。虚児院長の奢りだったのに僕の分が減った。悲しいことである。虚児院長は尾形さんが何処にいようと治療の邪魔をしないのであれば気にしないらしい。前から思っていたけれどもなかなかに図太い人である。
「センセーは、」
ビスケットを齧りながら尾形さんが虚児院長に話しかける。僕の頭を越えて会話をするのはいかがなものかと思うが、僕はそもそもそこまで地位が高い訳でもないので文句を言う筋合いもない。此処の正式な所属でもないし善良な一般市民と同じだろうので、形としては正しいのだろう。微妙な気持ちにならないかどうかはさておき。
「何をしでかしたんだ」
「え…気になるんですか…」
「いや別に」
「じゃあ何で聞いたんです?」
僕と尾形さんの会話に虚児院長は笑って、彼も若かったんですよ、と言った。
「まだ学生でしたしねえ」
「そうですよ、学生だったので僕も今よりずっと体力があったんです」
「大して変わらないと思いますけど、まあ力強さがあったのは認めますよ。伊佐早先生も年相応に落ち着くのだとあの頃の私に心配しなくて良いと言ってあげたい」
「え、心配していたんですか?」
「それなりに」
どうやらこのまま学生時代に僕が何をやらかしたかという会話は流せそうだ。というか多分、虚児院長はそのつもりだろう。別段秘密にすることでもないが、兵隊である尾形さんを前にしてそれを肴に出来るほど虚児院長は配慮の出来ない人ではない。そういえば、と続けられる。
「あの頃一緒にいた方は今はどうされているんですか」
あの頃一緒にいた、と言われる人間が一人しかいないことを僕は分かっている。
「亡くなりました」
「そうでしたか。残念ですね」
虚児院長は追求しないようだった。
「彼はとても面白い方でしたし、また話でも出来たらと思っていたんですが」
「虚児院長にそう言ってもらえて、彼も喜んでいると思います」
僕の休憩時間が終わって虚児院長にはお礼を言って部屋を出ると、残るかと思っていた尾形さんは着いて来た。意外だ。残って虚児院長に何か聞くと思っていたのに。
「誰の話だったんだ」
どうやら僕に直接聞くことにしたらしい。
「僕を大学に行かせてくれた人、でしょうかね。保護者ですよ」
でも、僕もそれ以上言うつもりはなかった。特筆すべきことは何もない。
僕の様子に引き下がることにしたのか、尾形さんはそうか、とだけ言った。僕は何も言わなかった。
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