20
あのあと虚児院長から尾形さんと、ついでに鶴見さんに正式に謝罪が行ったらしい。僕は同席を許されなかったのでらしい、としか言えないのだが。同席を許されなかった訳は、なんとなく分かっている。分かっているけれども僕はあまり意味はないと思うなあ、とぼんやり思っていた。
正直、あそこで尾形さんが着いて来るとは思っていなかったのだ。だから、あの時の呼び掛けは今から行くから止めないでくれ、ということだった。流石に僕と尾形さんでは尾形さんの方が勝つだろうから、全力で留められたら僕は助けになんて行けなかっただろう。それを阻止したかった。でも、尾形さんは着いて来てくれた。くれた、というのも何だけれど。尾形さんがいたから銃剣を使うことが出来たというのもあるし、結果として非常に助かったのだけれど、やはり何故来てくれたのか分からない。尾形さんには着いて来てくれと聞こえたのだろうか。でも、だとしても、着いて来る理由はなかったはずだ。
ぐるぐると考えていたら手に持っていた資料を床にぶちまけた。此処は病院の資料室である。貸出禁止とされている幾つかの論文を此処で読んでいたのだ。棚に戻さなくては。
よいしょ、としゃがんだ僕の視界に、誰かの足が入った。脚絆。
顔を上げる。
「ほら」
結構遠くに飛んでいた一枚を差し出しているのは。
「…尾形さん」
ふいに、記憶が蘇る。
ずっと、ずっと、昔のこと。尾形さんとなんか全然出会っていない、昔のこと。同じように散らばったのは何だったか、それは思い出せなかったけれど。舞い上がるそれらを指差して笑う、ひだまりのような記憶。つられて笑って、結局何枚か失くしてしまって怒られて、でも、ああ、そうだ。あの時は一人で探して、それでも出て来なくて、泣きそうになったのは怒られたからではなくて。別に大切なものでも何でもなかったのだ、でも、でも。探して欲しかった訳じゃない、それは言える。ただ、僕は、今。
―――違う。
そんな当たり前のことを、やっと認識したのだ。
「センセー?」
「あ、はい。いえ。何でもないです。拾ってくれて、ありがとうございます」
ぎこちない動きで資料を受け取る僕に、尾形さんは何を思ったのか、触ったらいけないものだったのか、と言った。
「え? いえ、そういうことは、ないですけど…」
「そうなのか。機密なのかと」
「論文ですから、機密とかは…あまり。発表されているものですし。というより、尾形さんドイツ語読めるんですか?」
「全く」
「なら気にすることないじゃないですか」
「それもそうだな」
すべて拾い終えて棚に戻す。戻したところで此処が資料室だったことを思い出した。
「ていうか尾形さん此処にいて大丈夫なんですか」
「さっき、」
言われて尾形さんは思い出すように首を傾げる。
「やたらとにこにこした医者とすれ違ったが、まあ、大丈夫だろう」
「それ怒られてますよね!? 僕まで怒られるのは嫌なので早く出てってください!!」
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