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どたばたと足音が聞こえたのでまた岩師先生なのだろうと思った。彼の廊下を走る音は特徴的だ。バーン! と音を立てて部屋の扉が開く。
「伊佐早先生いた!!」
もう大体何で彼がやって来たのか分かる。分かるけれどももっと静かにして欲しい。
「尾形さんの意識が回復したんですよ! まあ顎砕けてるんで殆ど喋れてないんですけど」
「うん、だろうねえ。ていうか意識回復早いな!?」
もう一週間くらい意識の浮き沈みが続くと思っていたのだけれど、回復と言われているからには回復なのだろう。戦争帰りの兵隊さんたちは軒並み自己治癒能力が高いという噂は聞いていたが、本当だったのだろうか。
「で、岩師先生、なんでまた僕を?」
尾形さんの主治医は白栖先生だ。確かに僕は尾形さんの顎の手術をしたけれど、その後の治療には関わっていない。まあ様子見は行っているけれど。それは顎がちゃんと正しく癒合しているか確認するためだし。ちなみに顎も腕もものすごい速度で癒合しているらしかった。すごいねえ、と白栖先生が言っているのも聞いた。
岩師先生が尾形さんと僕のことを知り合いだとか友人だとか、つまるところの見舞いに行くような関係だと思っているのは分かっているが、僕の態度を見ていて引かないほど空気が読めない人でもないのだ。だから、そんな人がまたこうして僕のところにやって来るとなると、一応それなりの理由があるのだろう、と考えるのが普通だろう。
「だって、」
満面の笑みで、
「尾形さん目覚めるなりセンセー、って呼んだんですよ」
口動かせないのでほぼ喉で、ですけど、と岩師先生は続ける。それがどうして僕を呼ぶことに繋がるのだろう。僕の分かっていないことを察したのだろう、もう! と岩師先生が腰に手を当てる。この動作似合うな、この人。
「尾形さんがそう呼ぶの、伊佐早先生だけじゃないですか」
僕は多分、ぽかん、とした表情を晒したのだと思う。流石に岩師先生でも気付く。
「…あれ、もしかして気付いてませんでした?」
「………うん」
「ええーッ」
「えー…って。ほんとにそうだっけ?」
「そうですよお!」
「ええ…?」
「自覚がないならほら!」
指を差されたのは扉。
「行って、確かめてくれば良いんですよ!」
流石に、それを拒否するような言葉も理由も用事も、今の僕にはなかった。
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