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病院というのは基本的に騒がしいところだと認識していたのだが、患者さんの入院している場所はよほどのことがない限り静かだ。尾形さんが入院しているのが何処の部屋なのか、僕は知っている。別棟の、日当たりの悪い部屋だ。窓が少なくて、あまり長期入院には向かないと思うのだが、鶴見さんたっての希望なのだと言われてしまっては病院側からは文句は言えない。そんなことを考えながら部屋に入ると、尾形さんは目を開けていた。
痛々しい。そんなことを思う。
包帯塗れ、傷だらけ、顔だって半分以上包帯で埋まっているし。誰だか分からないくらいだ。目だけがその隙間から僕を見ている。
「おはようございます、いい朝ですね」
言うことに迷ったのでとりあえずそんなことを言ったらじろり、と睨まれた。口が利けない分いつもより目が雄弁である。
「…僕だって、何を言ったら良いのか分からない時くらいありますよ」
言い訳のように呟いて、初めて僕は自分が尾形さんに死んで欲しくなかったのだと知った。心配、していたいのだと知った。そんなことは当たり前で、だからこそ僕はそれを自認することなくここまで来てしまったのだ。そうか、と思う。
僕は、尾形さんに、死んで欲しくなかったのだ。
「…岩師先生から聞いたんですけど」
眇められる。
「あー…岩師先生っていうのは、ちょっと背が低くて、目がくりっとした」
更に眇められる。
「違いますって、あの時の彼じゃないです。せかせか動く…小太りの」
気にされるとは思わなかった。そもそも彼は尾形さんが意識を失っている間に見習い期間を終えた。もう、此処にはいない。それに、彼のことは僕の中で既に終わったことで、彼だってその辺りの切り替えはちゃんと出来ていた。彼は、良い医者になるだろう。あ、話が戻った。
「尾形さんにとっての僕って、センセーなんですね」
それの何処が可笑しい、と言わんばかりの目だった。どうなんだろう、と思う。僕は僕に出会う前の尾形さんを知らないけれど、風邪を引いたこともないというのが嘘でないなら医者に世話になることなんて殆どなかったのかもしれない。そうであるなら、僕が尾形さんが初めて医者だと長く認識し続けた人間になるのは分かる、けれども。
尾形さんが関わっているのは、自分が患者としての∴緕メであることを分かっているのだろうか。勿論、本当に恋の病だなんて思っている訳ではない。あれは八つ当たりから生まれた悪ふざけの産物で、本当は今はもう効力を失っているもののはずだった。ぐだぐだと言い続けて、結局今まで生き残っているのだけれど。違うのか、と尾形さんは目で言う。
「…はい、そうですよ」
だから、僕は笑う。
「僕は医者ですから」
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