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その後何だかんだ言って僕の仕事は取り上げられることが多くなり、自然、尾形さんの病室へと行かされる回数が増えた。人手不足には人手不足なはずなのだけれど、お見舞いの方が大事だと言わんばかりだ。一体、どんなふうに思われているのだろう。別に、そもそも友人でもなんでもないのに。知人はまあ、そうだと思うので頷くことが出来なくもないが。実際仕事は回っているようだし、行けと言われているのだから行かないのも可笑しい話なような気もして。
「放っておいたら虚児院長から直接言われそうでしたし」
だから来てるんで暇な訳じゃないんですよ、とその言葉はどうしても言い訳じみて聞こえる。尾形さんも同じことを思ったのだろう、目が笑っている。趣味が悪い。
「ま、ちゃんと経過観察とかの理由もない訳じゃないんですけどね」
言うと経過観察? と問われる。いや、実際問われた訳じゃあないが。主治医が僕じゃないことは尾形さんだって分かっている。
「顎ですよ」
そう言っても尚不思議そうな顔をするので僕は分かりやすいように腰に手を当ててみせた。
「その顎誰が整形したと思ってるんですか?」
似合わない、と嫌そうな目をされた。そこまでだろうか。出来るのかと聞かれたので答える。
「出来ますよ」
出来ないものはないのか。
「…苦手なのは、産科、ですかね。やっぱり。どうしても緊張してしまいますから」
アンタでも緊張するのか。
「しますよ、緊張くらい」
小さいもんな。
「はい。小さいですしね」
何だか尾形さんがそんな普通の感想を抱くことに少しだけ驚いた。前の病院の待合室で見た赤子のことを覚えているのだろうか。医者なんて生命を預かるのが常だった、その中で新しい生命が生まれるということはひどく不安定で、生まれるというのに常にそれは死と隣合わせだった。何度か担当したことはあるが、いつだって心が底からすくむような心地になるのだ。僕は医者なので、そんなことはおくびにも出さないのだけれど。それを考えると、どうして今、言ったのだろう。尾形さんだって、いつか家庭を築くかもしれないのに。そんなことをぼんやり思いながら、思ってもいないくせに自嘲する。何笑ってる、と睨まれて、くだらないことですよ、と僕は言った。
「ひどいことを考えていただけの話です」
堕胎だとか?
「そうじゃないですよ」
じゃあ望まれずに生まれる子供のことだとか?
「同じことに、僕は聞こえますけどね」
嘘だった。本当は、尾形さんが何を言いたいのか分かっていて、僕は嘘を吐いた。嘘吐きめ、という顔で尾形さんは睨んで来たけれども、僕もそろそろ仕事に戻らねばならない時間だった。
「また来ますよ」
いつでも来い。
「…僕だって、暇じゃあないんですからね」
分かっている。
言葉にしなくても言いたいことが分かる。僕は、それがどれだけ異常なことなのか分からないままでいたかった。
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