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 最早僕の尾形さん見舞いは日課に組まれているようだった。誰だそんな余計なことしたの。そうは思ったものの別段急患がたくさん、という訳ではないので大人しく従っておく。特に、白栖先生にあんなことを言われてしまったあとではもう何を言っても無駄な気がした。主治医のお墨付きだ。わあい。何も嬉しくない。とは言ってもまだ尾形さんは顎の調子がよくないし、いやびっくりするような速度で回復はしているのだけれども、まあそれでも死にかけたことには変わりがないので結局僕が行っても何が変わる訳でもなかったのだけれど。大抵僕が今日何していたかとかそういうことを話すくらいで、尾形さんが楽しいのかどうかもよく分からなかった。大人しく聞いている辺り楽しいのではないかとは思うのだけれど。尾形さんはこれでも結構嫌なことは嫌だと顔に出す方だと思っていたし。
 そんなことを続けていたある日のこと。僕は知らない兵隊さんに呼び止められた。
「伊佐早先生でいらっしゃいますか?」
「…ええ、はい。伊佐早は僕ですが」
まさか白衣を着ている人間に片っ端から話し掛けているのではあるまいな、と思ったけれどもどうやら僕に最初に声を掛けたようだった。良かった、一番最初に見つけられて、と言う彼は別に嘘を吐いている訳ではなさそうだけれど、僕は何か違和感を抱いた。
「それで? 兵隊さんが僕に何の用ですか。また鶴見さんからの無茶振りですか?」
「いえ、そうではなく」
鶴見さんが無茶振りをするということについては何も突っ込まないのだな、とは思ったが遮ることではないのでそのまま続けて貰う。
「何か、尾形上等兵殿から聞いてはいませんか」
「何か、とは?」
また抽象的な問いだ。仕方なく問い返した。だって何か、とか言われても困る。というか。
「尾形さん、顎が砕けていて喋れませんし。そもそも僕、主治医じゃないんですよ」
そう、尾形さんは何も言ってはいないのだ。それに僕は主治医じゃない。尾形さんの友人として―――もうこれは訂正するのを諦めた―――見舞いに行くことを強要されている可哀想な医者だ。
「文句言いたいのは分かりますけどね。あの人、銃に触ってないと落ち着かないんですか」
「…ああ、尾形上等兵殿は毎日鍛錬を怠っていませんでしたからね」
「ああ、やっぱり」
そうだと思いました、と渋面を作る。
「鈍る、って言われるんですよね」
「………尾形上等兵は喋れないのでは?」
「喋れませんよ」
「今、言った、と」
「あー言葉の綾みたいなものですね。目で訴えられるので喋ってるようなものですから」
本当ですよ、と重ねると兵隊さんは一応は納得したようだった。あんなに重圧のある視線を投げられたら流石に僕だって分かる。というか分かってしまう。困ったことに。
 まあ、でも、と僕は話を切り上げることにした。
「そういうことは、ちゃんと兵隊さんに言うんじゃないですか?」
「そう、でしょうか」
「だって機密、でしょう」
僕がそう言うと、兵隊さんは曖昧に笑ってそれもそうですね、と言った。納得していない顔だった。

 何か不穏の風が吹いている。僕がそれを察知するにはあまりある対応だったけれど、僕は無視することにした。
 この選択が、今後の僕の人生を大きく左右するなんて、思いもせずに。


















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