たらればを反芻したって
私があの時、逃げなければ。
静姫の吐露した後悔は、その場の全員の腹の底をずんと重くした。
涼花は静姫の妖術については知らなくても、静姫が彼の店で働く四十万紗凪の娘であることは知っていた。
その為に近づき、そして彼女の優美さに惚れ込んだのだ。
静姫が逃げなければ涼花はきっと彼女の手を恭しく取ったはず…… 静姫だって、その時までは、彼のくれた言葉を処理しきれていなくても、多少なりとも嬉しいと思っていたのだからそれを振り払うことはしなかっただろう。
静姫はあるはずもない偽物の手の温もりを思い浮かべ……そんな「もしも」の空想を広げている。
_____
静姫の手を握りしめた涼花は、きっとこう言う。
「貴女のことが好きになりました。私のお嫁さんになってください」
と。
静姫は困惑するだろう。目を皿のようにして、そんなことは出来ない、と答えるのだ。
「何故ですか?」
それはきっと当然の疑問だ。
静姫は彼のことを何一つ知らない。私達は今、出会ったばかりでしょう、と彼女は返すだろう。
「確かに私達は今出会ったばかりです。それでも私は貴女しかいないと直感しました」
そうだとしても、結婚だなんて急な話に承諾できるはずがない。
「急じゃなければ考えてくれると?それではお互いのことをよく知るために私のお家に来てくれませんか」
いいや、そんな簡単な話ではないだろう。
それに静姫は紗凪がいる。四十万家に紗凪を一人で残してしまえば、彼女はあの男に殺されてしまうかもしれない。
静姫はあんな男はさっさと死んでしまえと願っているが、彼女は母親に「殺さないで」と頼まれてしまっているから殺せない……この時の静姫はまだ、紗凪が「誰一人も殺さないで」と願っていたことを理解していなかった。
「では、私がその男を殺せば貴女の母親の安寧は約束され、貴女の心配事としがらみは何一つなくなると?」
……え?
「貴女のお家の事情をある程度は把握しています。貴女が私の元に来てくれると言うのなら、貴女の母親に沢山の出資と安全を約束しましょう」
本当に?
「ええ勿論です。貴女と結婚できるのなら、貴女の母親は私の母親。私がいくらでも守って差し上げましょう」
それは願ってもない話だ。自分の将来なんて、紗凪の約束された安寧と天秤にかけるまでもないのだから。
しかも、あんな綺麗な言葉をくれた相手だ。自分も何か返してやるべきだろう。それがこんな自分で済むのならお安い御用!
そうして静姫は大喜びで涼花の手をぎゅうっと握り返し、凍霞涼花に手を引かれて歩きだす……。
_____
そうだ、彼女が凍霞涼花と出会った時……自身の焦りに逆らい、その地をぎゅうと踏み締め立ち止まれていたら。
「今頃、お母さんは何不自由なく暮らせるだけの環境とお金を与えられていた」
そして……。
「私だって凍霞涼花のお嫁さんになれていたんだ」
もしも、静姫が凍霞家に嫁入りしていたら。
きっとそこでも彼女は妖術師としての才能を見出されていたし、大いに重宝されていただろう……凍霞家のための立派な戦闘員となり働けば働くほど自慢の嫁になっていたはずだ。
そして彼女はおそらく、凍霞家の悪辣さなど気にも留めなかった。
何故なら静姫には紗凪がいたから。
どんな奴だって殺せた。どんな汚いことだって出来た。
人間じゃいられなくなったってよかった。もう自分はゴミでよかった。どんなに穢れた存在になったってよかった。
母親が飢えず苦しまずに暮らせていければ……それでよかった。
誰の不幸もどうでもいい。紗凪さえ守れていけたらそれ以外、どうだっていい……そんな悪者になれていたら。
「そんな人間になれていたら……凍霞静姫になっていたら、お母さんは死なずに済んだんだ」
四十万紗凪が死んだのは静姫があの時、無様に逃げだしたせいだ。
「全部、私が悪かったんだ」
全部全部、自分が臆病な人間だったから、紗凪が死ぬ羽目になったのだ。
「そんなことっ、」
「やめてください」
「ッ……」
薊は瞬間的にそれを否定しようとするが、静姫はそんな彼の言葉を叩き落とす……「そんなことない」だなんて、今一番聞きたくない言葉だった。
もしも、静姫には不思議な力があって、まるでゲームのようにセーブロードが出来て……凍霞涼花から逃げ出す前に戻れていとして。
静姫はまた、同じように彼から逃げ仰し、これから先に待っていたはずの六平家の暮らしを蹴ることはない、と……それを断言できる自信がない。
あれほど切望したはずの二人との暮らしを、今でも絶対的に欲しているか……自分でも分からなくなってしまった。
今の静姫は六平家を大切に想う人間に慰めてもらえるような、立派で高尚な人間ではなくなっている。
「……だってそうでしょ。誰かのせいにしたいじゃないですか。誰かは恨みたいじゃないですか」
誰かのせいだから恨むのではない……恨みたいから誰かのせいにしたいのだ。みっともないのは分かっているけれど、そうせざるを得ないのだ。
ならば、これで誰のせいにして誰を恨めばいいというのか。
凍霞家か?彼らを一人一人殴ればこんな感情はなくなってくれるだろうか……きっと、殴る前に私は捕えられてお母さんの決死の覚悟も六平家の平穏も全て台無しになるんだろうな。恨みをぶつけられない奴を恨むのは、恨みを晴らせない分苦しむだけだ。
では神を恨むか?いるかも分からぬ存在だ。お天道様に向かって「このクソ野郎が死にやがれ」と叫んだところで、彼女に返ってくるのは死にたくなるほどの緩くて温かい陽の光だ。そんなものが何の足しになるというのだ。
じゃあ、じゃあ……それ以外の誰のせいにして誰を恨めばいいんだよ。
「誰にも恨みをぶつけることが出来ないのなら、誰のせいでもない気がしてくるんです。でも誰のせいでもないなんて……そんな酷い話はないでしょう」
誰のせいでもなかったのなら。
それじゃまるで、四十万紗凪はこうなる運命だったみたいじゃないか。
そんなの絶対耐えられない……だから、だから。
「だから、私が悪いんです。全部全部……私のせいなんです」
もう自分自身を恨むしかない。
そうするしかないじゃないか……そうじゃなきゃ、あんまりじゃないか。
「……どうしろってんだよ」
どちらを喜べばいい?どちらを悲しめばいい?
静姫は自分の手が穢れなくてよかった。穢れた手ではチヒロの手を握ることができなかったから……代わりに紗凪は凍霞への生贄となった。
静姫は自分の手なんて穢しておけばよかった。穢れた手と引き換えに紗凪は死なずに済んだから……代わりに六平家の二人と出会うこともなかった。
「どうしてたらよかったんだよ」
吐き捨てるような静姫の言葉に薊は口を閉ざすしかなかった。
静姫は悪くない。悪いのは絶対に凍霞家と、この劣悪な治安のこの国のせいだ……彼女は何一つ悪くない。
でも、そんな慰めは返って静姫を苦しめるだけ。
彼女は自責を抱えることによって心の安寧を図っている……静姫にとってはそれが一番落ち着くのだろう。
しかし、静姫がその重すぎる石を抱えたまま生きていくのは……果たして本当に彼女のためになるのだろうか?
そうして、薊は何も返してあげられないまま……部屋には重苦しい沈黙で満たされていく。
「それにしても、凍霞静姫の一生ってどんな感じになるんやろうなぁ」
「……えっ?」
しかし、その沈黙を……柴はいとも容易く破り捨て、ゴミ箱にヒョイっと投げ入れた。
薊も静姫もそのあっけらかんとした口調に驚き、同時に柴の方へと目を向ける。柴はそんな二人の視線など意にも介さないどころか、なんとポリポリと煎餅を頬張っている始末。おい、おま、食っとる場合か。
「どっから出したんですかその煎餅」
「ん、ここは俺ん家や」
「戸棚を指差すな。そういうことじゃなくて」
「せやから柴さん昨日も言うたやろ。興味ないねんお前の不幸話。煎餅食ってる方がまだええわ」
「なっ」
彼女の苦しみを「興味ないねん」と一蹴……酷い言い様である。
部屋中にのしかかる沈黙を破ったのは柴だった。静姫はダンとテーブルを手で叩き、はくはくと口を開けたり閉じたりするだけで言葉が出てこない。薊に至ってはおおよそ十年以上続く友人との交流関係を見直した方が良いのかとさえ考え始めている。
「いやめんどいねん。うだうだうだうだ」
「うっ……」
まだ言うか。
「んな中途半端にもしも、もしもって考えるからあかんねん」
「そんっ……!そっ……そ……」
「せやったらお前が凍霞のボンボンの嫁になった後に、どう生きてどう死ぬか最後まで考えてからもの喋れや」
「おい、柴ッ!お前、いい加減にッ」
「薊さんフレンドポイント減点です」
「エッ!?」
突然の裏切りに、薊は視線だけではなくグリンッと頭ごと動かして静姫の方を見る。今、首からグキッという音が鳴った。痛い。
そんな地味なダメージに耐えながらの、彼の心情としては『ここで僕!?いや明らかに柴だろ減点は!おい待て何故ここで「柴さんはフレンドポイント追加です」「やりぃ」って会話が聞こえるんだ!?』と言ったところか。
薊は相変わらずこの二人に振り回されるばかりであった。ついさっきまでトンチキフレンドポイント加算は自分にも適用されていることをすっかり忘れているようである。
「……いふぇぐぁすい、」
「モノ食いながら喋んな」
「……凍霞静姫の一生か」
しれっと煎餅もらってるし、食っとる……なんだこいつら。
そんな薊のドン引きをフルシカトのまま、ぼりぼりバリバリと煎餅を頬張る柴シズ師弟……うん、この二人なら上手いことやっていけそうだ。そういうことでこの思考はトン切ろうそうしよう、僕はもうついていけない。
「……何度思ったかもしれない、もしもの話なんですけど」
もぐもぐごくん、と一枚の煎餅を食べ終えると静姫は再び話し始めた……先程までの負の感情は見られず、どこまでも落ち着き払った様子だ。
「おん」
昨日今日の間柄ではあるものの、柴は四十万静姫という人間の特性をよく理解している。
彼女は同情して欲しいわけじゃない。だから慰めもいらない……ただ、己の価値を高めたい。
だからこそ、自分が卑屈になってどうにもならなくなったとき、思いっきり引っ叩いて欲しいのだ。甘えるな、シャキッとしろと叱って欲しいのだ。
静姫が甘えるのは、六平千鉱という人間にだけ……だからこれから自信を持って彼に甘えられるように、こんなところで自分で自分を潰すわけにはいかない。
「私が一先ず養女として凍霞静姫になったていたら……まあ勿論、悪逆非道の限りを尽くすわけなんですけれど」
「そうやな」
「将来的にも子供も産むんでしょうね」
「そうやな」
でも、彼女はまだ十歳だ。結婚できるような年齢ではない……つまりは婚約、という形になるのだろう。
「凍霞家は端的にいうと美形の子が欲しいわけですよね?しかし、十代前半である私の未発達な子宮では健康的な胎児を育てることは不可能です。女性が一生のうちに子供を産む回数は有限。無駄打ちにもなりますし、暫くの間は種を仕込まれることはないと予想されます」
「……なあ、柴」
「慣れろ。こういう娘や」
スイッチの入った静姫は大人でも言い淀むような事実を並べ立てていくことに定評があった。
敢えて言うのなら……相手側の気まずさを完全に無視し、ロジカルずらずらモードに入った彼女は精神的に持ち直しているパターンが多いので逆に心配は要らなそうだったりする。柴はひっそりと「世話の焼ける娘やなぁ」なんて考えていた。
「そして、凍霞涼花と婚約している私は未来の凍霞家を担っていくものとして花嫁修行を受けながら、妖術師として凍霞家の手となり足となり、なんの罪もない人を手だけにしたり足だけにしたりするのでしょうねうおお反吐が出そう」
「速すぎる、スピードが。止めどない、スピードが」
「しっかりついて来ぃや薊」
頑張れ薊。負けるな薊。
「女性の結婚が法律で許されるのは十六歳から。おおよそ六年ほど経てば私は正式に凍霞涼花と婚姻を結べるようになります。ですが……私はそれを拒むでしょう」
一見して、凍霞静姫は涼花との結婚を受け入れているように聞こえる。それがどういった心境のものかは分からないが、もしもの世界の静姫は現在の彼女と違い凍霞に従っているのは間違いない。
なのに、凍霞静姫は十六の頃には結婚を拒むのだろうと言う。
「ふむ。その心は?」
「……凍霞涼花は己の家族に微塵も情がない」
そもそも涼花は才能はあるにしても、凍霞家を継ぐ気はなかったのだ。しかし、逃げ出した静姫を捕えるためだけに、自分が確実に当主になるべく十八人もの兄を簡単に殺してしまった。
「私の手配書の印刷及び配布、これの準備だけでも時間はいるでしょう。しかも、次期当主と認められてからでないと許可もおりない。加えて十八人もの人間を素材としてオブジェを制作……」
静姫が世間から行方を晦ませたのは六日前……それから彼女の手配書が正式に発行されたのは一昨日。
「つまり一連のことを凍霞涼花は四日間でやってのけた」
これだけのことをたったの数日で実行に移せるような人間が凍霞涼花という男である。
血の繋がりのある人間でも殺すことに対して、なんの抵抗もなかったのだろう……そこには家族間の絆などなかったはずだ。
「そして、凍霞静姫が涼花の手を取るのは、彼が『四十万紗凪の後ろ盾になる』と約束してくれたから」
凍霞家がただの一般人である紗凪を守ってやる義理などないだろう。少なくとも、継承権しかないだけの凍霞家嫡流である末弟の命令だけではいささか厳しい。
しかし、凍霞静姫はそれでは納得しないだろう。もっと確実性を求めるはずだ。
「きっと私は……凍霞涼花に十八人の兄を殺そうと提案するでしょうね。それどころか、独断で殺してまわっちゃうかも……私の妖術は、暗殺に特化しすぎている」
「……」
静姫は冷めた目つきでもしもの世界の己の残虐性を吐き捨てた。
何も驚くことはない。彼女がそうなる可能性は充分にあったのだから。
静姫が現在、殺人を肯定しない人間になれたのは六平家の温かみに触れることが出来たおかげ……もしも、文字通りの冷えきった凍霞家で成長していたら、彼女は間違いなく冷酷な人間になっていただろう。
「凍霞家の次期当主の嫁が、ケツの青い小娘では格好がつかないでしょう。少なくとも表向きはたった一人の……いえ、たった一人になってしまった財閥の跡取りなのですから」
きっと、静姫は十六歳の嫁ではいけない。少なくとも二十歳を過ぎ、法律上で飲酒が許されるようになるまで婚姻は結ばないと言うのだろう。
会合などで酒も飲めないような小娘が顔を出しでもすれば恥晒しもいいところだ。
「そうして、そうですね……」
そこで一度、言葉を切った静姫は……とても美しい微笑みで、愉快そうに続きを話し始める。
「私は二十歳になる一つ前の年……十九歳で正義の味方に斬り殺されて死んでしまうのでしょうねっ!」
それが、凍霞静姫の生涯となる……結局、涼花と静姫は結ばれぬ運命にあるのだと、もしもの自分の死因も纏めて笑い飛ばしている様子だった。
「なんや、えらい具体的に考えたなぁ」
「だって凍霞涼花は報いを受けるべきでしょう?」
せっかくの報いならば、最も残酷な状況に陥らせないと意味がない。
「何年も待ち続け、幾度も幾度も夢想した人生で最高に幸せな瞬間を、美味しく味わうことも出来ずに奪われる……大勢の人の不幸を省みることすらせず屠り続ける屑なら当然の報いかと」
涼花の生き方自体はもしもの世界でもそう変わらないのだろう。違う要素など傍に静姫がいるか、いないかくらいしかない。
だが今現在の涼花ともしもの世界の涼花……そのどちらも四十万静姫にとっては、何も変わらない憎むべき存在なのだ。
「凍霞涼花に報いを受けさせることができるのなら、その役は別に私じゃなくたって構わない」
それは静姫が前の生家から離れる決心をした時と同じ感情だった。生家に巣食う屑を殺してくれるのなら、それは自分の手によるものである必要はない。
「でも、その報いの一端に私が存在するのなら……」
ただし、あの男が報いを受けることになった引き金は、凍霞家に静姫の身柄を引き渡すことが出来なかったことによるケジメ。
そして、もしもの世界の凍霞涼花の報いは結婚のタイミングを先延ばしにした結果、永遠にその機会が失われてしまうこと。
そのどちらも……原因は静姫にある。
「それは至上の愉悦となるでしょう」
「……そうか」
凍霞静姫ではない……四十万静姫のその笑みは酷く痛快なものだった。「おう、ざまあみろよ!」と言いたげの表情には、相手に報いを受けさせることが出来るのなら自分の命など幾らでも差し出せるような傲慢さが伺えた。
そんな静姫だから……。
「そんなら四十万紗凪の安寧を欲しいがために、数多の人間に絶望を与える『凍霞静姫』の報いとはなんや?」
「……」
たとえ自分自身のことだろうと……いや、自分自身のことだからこそ『凍霞静姫』にもなんらかの報いがなくてはならない。彼女はそう考えてるはずだ。
「……凍霞静姫の報いとは」
そしてそれは決して、正義の味方に殺されることではない。
「凍霞静姫が凍霞家に身を置くことによって、与えられてきた……汚らしい安寧の上で生きているお母さんが、凍霞静姫の訃報を耳にして「私のせいだ」と絶望することです」
静姫はきっと紗凪の声の届かぬ遠い場所で、母のためにと損得勘定のままに大勢の人を不幸に陥れる殺人鬼になっていただろう。そして、紗凪の知らない場所で当然のように殺されるのだろう。
そして紗凪は凍霞家の定めの中で、心も体も薄汚れた亡骸になる娘のことを脳裏に浮かべては「嗚呼、私がそうなればよかったのだ」と毎夜毎夜を泣き明かしては、何度も何度も死にたいと考える。
でも、死ねない……死ぬことは許されない。
「私がお母さんに生きてほしいと願ったから。その願いの代償に私は身を捧げたから」
だから、紗凪は死を選べない。たった一人で暴力的なまでの希死念慮に蝕まれ、苦しみ続け、心に空いた大きな穴から吹き荒れる吹雪に凍えながら……その生涯をゆっくり終えていく。
それが『凍霞静姫』の報いだとするならば……。
「それだけは、絶対に……嫌だなぁ……」
今の自分のように「私のせいだ」「私が悪かったんだ」「どうすればよかったんだ」と嘆き悲しむことは、絶対に母にはしてほしくない。
「だったら、もういいや……」
これが正解だったとは思わない。もっと他にいい方法があったはずだと後悔せずにはいられない。
そうだとしても……今の紗凪と静姫が取れる最善は、確かにこうだった。
「私のせいです。私が全部悪いんです……でも、それでいいです」
それでも……。
「それでも私は、凄く綺麗だから……それに免じて許してもらおうと思います」
そう言いながら、目を閉じて静かに笑う静姫。
そんな彼女の瞼からこぼれ落ちた一雫は……確かに、どんな宝石よりも綺麗なものだった。