花なんかで満足できるか


「で」
「んー?」

 静姫はマッサージ後のストレッチをしながら、柴に向かって口を開いた。
 チヒロはたった今、夕食の準備のために台所へと赴いた。しばらくは帰ってこないだろう。
 そんなタイミングで自分に話しかけるか、と柴は彼女の洞察力はやはり侮れないと再確認した。
 
「YOUは何しに六平家へ?」
「弟子のお誕生日祝いやで」
「白々しい。驚きの白さ」
「マジックシバ」
「一切上手くないしマジックじゃなくて妖術」

 食器用洗剤はジョイ派、風呂用洗剤は緑の魔女派、トイレ用洗剤はドメスト派等、特筆すべき理由はないがマジックリンを使用していない六平家。
 そんな六平家にマジックシバ……もとい柴が訪問した真の理由がただの誕生日祝いなわけがなかった。

「柴さん、本当は今日来るつもりなかったから、予め薊さんから預かった甚平とこのグローブくれたんでしょう。ちょっと前に」
「まーそやな。ただ今日会う約束しとった奴がおんねんけど、事情が変わって別日になったからこっち来てん」
「それでも、お誕生日祝いが目的ではないんですよね」
「なんでそう思うねん」
「まだ「お誕生日おめでとう」の言葉を聞けていないので。目的がそっちならいの一番に言うでしょ普通」
「……おめっとさん」
「取り繕いましたね」

 おいっちにーおいっちにー、と体を伸ばし続ける静姫は「やっぱり」と少し呆れてしまう。
 お祝いごとの日にお祝いじゃない話題をわざわざ持ってくる。それはつまり緊急を要する上での良くない知らせである、ということ。
 そういうまずい話は予め察されないようにしてほしいものだ……気分的な問題で。

「いや、なに、なんというかな……」
「……」
「したんよ、心配を」
「……はぁッ!?」

 いや待てごめんなさい。そこまでの事態とは予測していませんでした。
 静姫は倒していた身体を起き上がらせ、勢いよく柴に向かい直した。

「嘘、でしょう、柴さん!」
「えっなん、どないした?」
「柴さんは、まだ若いじゃないですかっ……!」
「えっ……」
「死ぬには」
「どういう意味じゃゴラ」

 急に真剣な何かに縋るような声色だったことに戸惑いを覚えたものの、十代前半の女子に「若い」と言われ不覚にも喜んでしまった柴登吾。しかし、その後に続いた台詞によってその喜びは急転直下した。ちょっと三十路越えのおじさんの心弄ぶのやめてくれんか。

「いや、柴さんが私に心配なんて、あまりにらしくないもので……てっきり不治の病に罹りお医者様に余命宣告されたものかと」
「俺がシズちゃんの余命宣告したろか?明日って」
「あっ全然お元気そうですね大変失礼致しました」

 割と半分本気だった失礼すぎる心配は全くの勘違いであることを静姫は即座に理解する……指をぼきぼき鳴らしてはチヒロの「誕生日を命日にするわけにはいかない」という願い『は』守ろうとする、血気のお盛んな己の師範を見て。

「じゃあ、心配って?私の身に何があったというんですか。筋肉痛でぶっ倒れたことしか思い当たりませんが」
「……ちょっと、精神衛生上よろしくないお話や」
「……ああ、そういう」
「すまんな、せっかくの祝いの日に」
「……」
 
 柴が難しそうな顔で頭をボリボリと掻きながら話を始めた。静姫の精神によろしくない、名前さえも安易に出したくもない話とは……あの醜悪な財閥関連のもので間違いないだろう。

「速報や」
「速報?」
「ん。今日の昼に落とされた電撃ニュース」

 柴は胸ポケットから一枚の紙を取り出した。それは静姫の記憶によると、一般的なものとは違い、妖術師に関連する情報をよく取り上げている週刊新聞……その号外版だった。「読み上げるで」と、柴が一呼吸置いてその内容を静姫に伝える。

「行方不明者『四十万静姫』」
「……」
「捜索から973日目の本日をもって__」

 *

 月明かりが降り注ぐ夜だった。
 
「シズ」
「……チヒロくん」

 縁側に座り込み、その光を一身に受ける静姫は、チヒロの瞳に変わらず美しく映った……まるで、彼が自身の恋心を自覚したあの日の夜のように。
 あの頃と今、二人の違うところを言えば、お互いに背丈が少し伸びたこと。そして……

「今日は包帯巻かないの?」
「……うん、今日はいいや」

 静姫が手に包帯を巻くようになったこと。いつからだったかは、ハッキリと覚えてはいない。
 最初は単純に怪我をしていただけなのだろう。木刀をあれだけの回数振り続ける毎日を送れば手の皮だって何度も剥けるに決まっている。
 しかし、静姫は怪我が治っても包帯を外そうとはしなかった。一日中、寝る時もだ。
 手は剣士の命のようなものだ。何かしらのこだわりがあってのことだろう……と、チヒロは最初にそう考えて、その理由について深く聞いたことはなかった。
 それでも気になることが一つ。それは、その包帯を巻くことを、静姫は一度たりとも他の者に頼むことはなかったこと。
 彼女はハッキリ言って甘えたがりだ。故に、きっと自分に包帯を巻くことを強請ったりするものだとばかりチヒロは思っていたのだが……巻きにくそうに苦戦していても、チヒロが手伝おうかと聞いても静姫は自分の包帯は必ず自分で巻いていた。
 だから、分かった。
 静姫は怪我をしているわけでも、剣士のこだわりが故でもなく……自分の手を隠したいがために包帯を巻いているのだと。

「……」

 チヒロは静姫の隣に座り、視線を横に移す。
 あそこまで頑なに隠されてきた手のひらが、今は月明かりに照らされながら、堂々と晒されている。
 なんだか、久しぶりに見た気がする。常に寝る時は互いに繋いでいたのだが、ずっと包帯越しだったその手。
 その様子は、前の記憶とは少し違って……。

「いつも料理したいって、我儘言ってごめんね」
「!」

 静姫が突然口を開いた。ぼんやりと考え事をしていたチヒロは少し驚いて肩を跳ねさせる。
 驚くことではない筈なのに、常に隠されていた彼女の一部を盗み見るようにしていた為か、チヒロは少し気まずくなってうまく返事が返せなかった。
 しかし、静姫はそれに気を悪くした様子はなく、無言のまま月を眺めていた。

「……シズは、なんで料理したがるの?」

 なんだか気まずい無言の空気を変えたくなり、チヒロは常に疑問に思っていたそれを口にする。
 今日、チヒロの夕飯の支度前に静姫が騒いでいたあの話題。彼女が料理をしたい、その理由。
 一瞬だけ、六平家に滞在させてもらっている上での引け目だろうか?とは思ったが、それも不思議な話だ。
 静姫は以前に「何もしなくても美味しいご飯が勝手に出てくる毎日!」と六平家を絶賛していた。
 言葉だけ切り取ればなんとも自堕落な人間の発言のように思えるが、彼女は料理以外の家事はよく手伝っていた。
 掃除洗濯、衣服の修繕。それに調理器具の扱いはともかくとして食材の下拵え……正直なことを言うと、チヒロにとってそれはとても大助かりであって、静姫の「何もしなくても」は実際には大嘘である。
 それに、いつも静姫の口ぶりからでは「家事のお手伝い」をしたいというよりは、ただ「料理」をしたいと言っているようにしか聞こえない。
 しかしながら、静姫は食べるのは好きでも料理が好きというような様子は見られない。

「……だって、」

 静姫は少し視線を下げながら、小さな声で短い言葉を切った。その後に続く言葉をチヒロは待つ。
 そして、それに続く言葉を聞いた瞬間、チヒロは……自分の問いかけを酷く後悔した。

「だって、そっちの方が好きだと思ったから、形だけでも真似していたかったの」

 静姫はそう言い終えると、視線は下に向けたままチヒロの手をパシッと取る。
 嬉しい筈なのに、欲していた筈なのに。彼女のその行動は、チヒロにとって自身の身を裂くほどに苦しいものだった。
 静姫が自ら……今まで隠しておきたかった筈の手のひらの感触を、チヒロに直に味合わせてきた。
 それが、とても、とても。

「こんなじゃなくて」
 
 ずっと、ずっと直接触れたかったその手のひらの感触……それは以前とはすっかり変わってしまっていた。

「お野菜とかお魚とかそういうのしか切ったことないような、ぼこぼこしてない、すべすべで柔らかいの」

 包丁で優しく食材を切るような、柔らかいものじゃなくて。
 立派な剣士に成るべくして、何千何万と木刀を振り続け、何度も何度も皮を剥いて血だらけになって。
 それでも、その柄を握ることは辞めず努力し続け……タコだらけになってしまった硬い手のひら。
 
「そんな綺麗な手をしてる女の子の方が、好みだと思ったから……男の人は」

 おとこのひと。
 静姫の口から出たその言葉は、とても可愛らしくて、同時に酷く残酷なもの……チヒロ以外の誰かを想う、まさに恋する乙女の色を纏っている。
 分かっていた。静姫が誰かに恋をしているだなんてことは、チヒロには。そして、その相手が自分でないことくらい。
 何度も気を引くようなアピールをしても動じぬ静姫にちくりと傷む胸を抱えつつも、彼女の恋心がこちらに移り変わってくれはしないだろうか……と淡い期待を抱いてないと言えば嘘になる。
 しかし、それら全ての言動など静姫の恋心には打てど響かぬものであったらしい……もしも、彼女がチヒロのことを想うのなら、絶対に『男の子』と言っただろうから。

「シズは……」

 言わなくてはと思った。あの日、チヒロが言い損ねたあの言葉を。
 
「綺麗だよ、すごく。本当に……お月様みたいに」

 彼女があのとき言った『綺麗』という言葉が『愛してる』という意味に転じるように。伝われ、伝われ、と強く念じて。

「知ってる……」
「っ」
 
 だけど、きっとその言葉のタイミングを間違えた。間違えてしまった。
 きっと静姫はチヒロが慰めのために言ったと勘違いしただろう。静姫は自身の手の形が醜いと思っているから、彼女がいつも自分ことを「綺麗だ、美しい」と褒めちぎっているのを、優しい優しいチヒロが肯定してくれているのだと。気にする必要はないと言っている……そう捉えられてしまった。おそらくそれは、今の静姫の心情では彼女の想い人に言われなければ何の足しにもならないだろう。
 慰めなどではない……慰めにすらならない。そんな、チヒロの真剣な愛の言葉はきっと……

__『月が綺麗だね、チヒロくん』

 あの時に言っておかなければ、意味を為さなかったのだ。
 
「……シズはさ、好きな人が、いるの?」

 そんな二年前の後悔から、チヒロはよせばいいのに静姫の恋心について追及してしまった。
 納得がいかないのだ。静姫は自分とほぼ同じ年齢のくせに、こんなにも必死に振り向いてもらうために努力しているのに……チヒロの物になることを一切の躊躇いもなく快諾したくせに。
 自分が静姫のことを好きになる前に、静姫が好きになった男をずっと想い続ける彼女が、気に入らない。
 だから、静姫の口から出る返答が絶対に自分を傷付けるものだったとしても、聞かずにはいられなかったのだ。
 目の前にいる気に入らないのに、深く深く愛さずにいられぬ女の子が、相手について聞かれ動揺する様をこの目に焼き付けておかなくては気が済まなかった。

「いるよ。初恋の人なんだ」

 しかし、静姫はそれでも一切の動揺を見せなかった。
 何の感情の揺らぎも見えなかった。まるでチヒロがそれを聞くのを知っていたかのように、静かに待っていたかのようにさえ思えるほど……落ち着いていて流れるようにそう答えた。

「っ、」

 チヒロは悔しかった。こんなに自分の心を掻き乱す恋心というものは静姫にとってはなんてことない話題の一つだと言われているような気がして、どうしようもなく悔しかったのだ。
 だから、聞こうとした……「相手は誰だ」と。
 それ以上聞けば、曖昧にすることができていた恋敵の姿が象られてしまう。勝てない存在がハッキリと形成されてしまうというのに。
 もうチヒロは、自分で自分を止められなくなってしまっていた。

「でもこの初恋は実らない」
「!」
 
 しかし、そんなチヒロを立ち止まらせてくれたのは静姫だった。走り出させるのも、その場に留まらせておけるのも、全て彼女の手一つ、思いのままだとでも言うかのように。
 静姫は呆気に取られているチヒロのことを知ってか知らずか、続きを語り始めた。

「別に『初恋は実らないもの』……なんていうよく聞いた言葉を信じているとか、そういうことを言ってるんじゃないだけどね。確信してるんだ、私の初恋はこのまま、実を結ぶことはないんだって」

 何故だろうか。静姫はとても哀しいことを話しているはずなのに、彼女の表情はとても嫋やかで、落ち着いていて、とても心地良さそうな微笑みだった。まるで、何一つ不安に思う事などないように。

「……何で?」

 不思議だったと同時に、羨ましかった。チヒロは自分の初恋が実るビジョンが全く浮かばない。だからこそ、こんなにも苦しんでいるというのに。何故、同じように初恋は実らないと……何の疑いもなく言ってのける静姫はこんなにも穏やかなのだと。
 ずっとずっと一緒にいながら少しも知りたくなどなかった、自分にはほんの一ミリも寄越してくれない静姫の恋慕のことを……この数分の間でチヒロはどうしても知りたくて、知りたくて堪らないものになっていた。

「悲しいことになっちゃうから」
「……悲し、い?」
「そう、悲しいの。この恋が実っちゃったら、悲しくて悲しくて堪らなくなって、最後には滅茶苦茶になって大事な物がぜーんぶ砕けてなくなっちゃうの」

 まだ、繋がれたままの静姫の手は微かに震えていた。先程まで落ち着いていたはずなのに、そんなたらればの話如きで彼女は不安の波に溺れそうになってしまっている。
 悲しい、悲しいとは何だろうか。チヒロのこの初恋は……静姫と想いが通じ合えば絶対に嬉しいとしか思えない。
 そりゃあ、悲しいことが一つもないなんてことは言わない。でも、その初恋の先に何一つ幸福なことがないと断言するような静姫には、一体何が見えているというのだろう。彼女の恐れるたらればの未来には、何があるというのだろう。

「せっかく、綺麗なところから生まれた恋心なんだ。だから、滅茶苦茶になって汚れたものになんて絶対したくない。だから、初恋は実らない……いや、絶対に実らせない」
「実らせないって……」

 静姫はその恋を「やめる」でもはく「実らせない」と言っている……では、彼女が望んでいる初恋の結末とは一体何なのだろうか。
 良くない考えではあると分かっているが、静姫が彼女の想い人と一緒にならないと言っていることはチヒロにとって好機であるはずなのに……チヒロにはその先の結末が彼にとってどうしようもなく苦いものだと、どこか確信があった。
 
「私はね、チヒロくん。この初恋には実を結ばせることもなく、枯らせることもなく、ずっと綺麗なお花さんのままにするんだ」
「それって、」
「私はこの人生を生きてる間、初恋をやめないよ。ずっと好きなまま、綺麗なままで大事に大事に取っておくの。それはもう、この六平家でずっと暮らしていくと決めた時からそう考えてたんだ」

 綺麗なものは大好きだから。
 本当に愛おしいものを語る静姫の表情を見て、チヒロは……確信した。
 本気だ。本気なのだ。静姫はきっとこれからただ一人の人間だけを想い、その恋心を他の誰にも明け渡さず、己の中だけで愛で続ける気なのだと。
 だから、彼女はもう他の誰にも振り向かない……そういうつもりで生きていく気なのだと。

「(そんなのって……)」

 そんなの、もうどうしたって……。

「つまり、シズはその好きな人より俺を取ったってことだよね」
「……ん?」
「シズは自分の想い人よりも、主人の俺と一緒にいたいんだよね」
「え、ん?ちょと待って」

 もうどうしたって、負けるわけにはいかないじゃないか。

「だって、さっきの話を通して聞くとシズは人生においての恋愛をその人に全部捧げるつもりなんでしょ」
「ん……?まあ、そう、なるね……?」

 チヒロは未だ困惑したままの静姫など素知らぬフリをし、スンとしながら話し続ける。
 
「そこまで大好きなのに、その人と一緒になろうとすると六平家での暮らしが滅茶苦茶になる、と」
「うんうん」
「じゃあ、つまり……シズはその大好きな人への恋心を観賞用のお花で終わらせて、この先の未来は俺とずっと暮らしていくんだよね」
「そ、うだね……?」
「それってつまり、シズは初恋の人なんかより、俺との暮らしの方が大事で、ずっとずっと一緒にいたいってことなんじゃないの」
「チヒロくん」
「はい」
「きみ、天才か?」
「悪い気はしないね」

 チヒロは近年稀に見る力技で静姫の中の凝り固まった思考を、解して解して自分の都合の良いように持っていった。マッサージスキル磨いてて良かった。
 静姫は初恋を進ませず綺麗に取っておくことに、並々ならぬ覚悟を抱きながら、人知れぬ苦痛を味わったかもしれない。だけど、それはチヒロだって同じこと。彼だって彼女に狂わされた一人である。
 静姫の都合なんて知ったことではないし、静姫の綺麗な初恋を彼女の思惑のままにしてやる道理なんて微塵もないのだ。それに……

「(何が『綺麗なお花さん』で終わらせる、だ……)」

 静姫は芸術を楽しむ華道家などではない……彼女は剣士であることを選んだのだ。
 だったら、いずれ静姫に一目見ただけで綺麗だ、美しいと思わせる刀。それを作り上げる自分を選ばせてやらなくては。
 もとより長期戦は覚悟の上だ。チヒロは獲物を狙うような鋭い視線をそっと彼女に向けながら、静姫の手をぎゅうと握り返した。

「……っんふふ」
「……」
「ねえねえ、チヒロくん」
「なに?」

 静姫は先程までのしおらしい雰囲気はどこへやら。心底おかしそうに、それでいてあどけなく……小さく息を漏らすように笑ってはチヒロに微笑みかける。チヒロには分かる、これは静姫が何か『良いこと』を思いついた時の表情だ。

「昼間、チヒロくんはマッサージの他に『欲しいもの』がないかって聞いたよね?」
「聞いたね」
「今、思いついたよ」
「料理はなしだよ?」
「散々弄られいじらしい話をしたシズちゃんだから流石に今は違うよ。これからは知らなーい」
「知ってて欲しい」
「えい」
「む」

 もういいからお黙りなさい、と静姫はチヒロの両頬をサンドウィッチのように両手で挟んだ。チヒロは表情にこそ出さないものの、急に近づいた静姫の顔に、これでもかというほどにバクバクと胸を高鳴らせている。
 彼はよく彼女に機会さえあれば似たようなことをしているものの……何だか、される側にまわるのは初めてだったような気が。

「チヒロくん」
 
 鼻と鼻が触れそうなほど近づいて味わえる静姫の息遣いは、なんと甘美なものなのだろうか。チヒロはそんな彼女に思わずうっとりとしてしまう。
 そんな目の前のチヒロに向かって、静姫は吐息をかけるように次の言葉を紡いだ。

「私と、デートして?」