萌苗が降り立ったのは、上空ではなく所々が戦闘によってささくれ立っているコンクリートの上。霊圧を殺し、息を殺し、存在を出来うる限り『無』にして藍染からの合図を待ちながら、上空で激しく繰り広げられている戦闘を余所に歩いていく。
懐かしいと思えるほど、鮮明に思い出せる街の景色。その景色と何処までも似ているレプリカに、萌苗は関心していた。が、それも見知った弱々しい霊圧の反応ですぐに掻き消される。

霊圧に導かれるままに歩いていくと、仰向けに倒れているハリベルの姿。思わず駆け寄り、ハリベルの傍らに膝を着いて様子を伺うと、傷の具合はかなり酷く、呼吸も虫の息になりつつあった。

「ハリベル…!」
「……萌苗…」

声を掛けられて、ハリベルははじめて萌苗に気が付いたようで、うっすらと目蓋を開けた。
声を発するのも辛そうだったが、ゆっくり萌苗の頬に手を添え話を続けようとするのを見て、萌苗は添えられた手をきつく握った。

「負けて…しまった…」
「……」
「だが、これでアイツ等と共に逝けると思うと…複雑だな……」
「そんな、こと…」
「…萌苗」
「…なに?」
「藍染には…気を付けろ…。私は、奴にやられた…、きっとお前にも…」
「……うん。ありがとう」

藍染が信用ならない人物だと言う事は、出逢った頃から知っていた。そうは言わず、ただ頷く。すると、ハリベルは安心しきったかのような顔をして、ゆっくりと微笑んだ。

「萌苗…お前に、逢えて良かった」
「私も、ハリベルに逢えて…嬉しかったよ」
「ありがとう…。萌苗……」

― 愛 し て い た ―

最後の言葉は胸に秘めたまま、ハリベルは目を瞑る。同時に頬に触れていた手の力が抜けて、地面に落ちた。

「…おやすみ、ハリベル」

きつく目を瞑った後、ゆっくりとハリベルの元を離れ、歩く。
上空では激しい戦闘が繰り広げられているにも関わらず、自分の周りだけ音が無く静寂に包まれている気さえした。
そんな時、静寂を打ち破るかのように、突然一護の霊圧が地上に現れた。大地が、空間全てが揺れ動いているように感じているのは、彼らが戦闘を再開させたからだろう。

段々と霊圧が弱まっていく数が増えていく。しかし、それは仲間のではなく死神の霊圧であって悲しいと思う事はなく、静かに時を待つ。逆に段々と増していく藍染の霊圧に神経が痺れる感覚を覚えながら、被害に合わないようにと存在を消し、霊圧が近付いてくれば場所を移動する…。それを繰り返して暫くすると爆音が耳に届いたと思ったら、カッと空間が赤く染まった。体感温度も少しばかり高くなり、目線を移せば数キロ先に、巨大な炎の壁が立ちふさがっていた。が、それもすぐに黒い一閃に掻き消される。

「…一護」

今のは確実に一護の霊圧。
彼は今、藍染と対峙している。

一護は藍染に勝てるのだろうか?否、喩え藍染の持つ鏡花水月の能力に当てられていないにしても、今の一護では彼に勝つ事は出来ない。そう思わせるほどに、今の藍染の力は強大だ。
きっと、喩え霊圧も怪我も無く万全の状態だとしても、今のままでは誰も彼を止める事は出来ないだろう。そう思わせるほどに。

(誰も…止められない……)

そう考えた途端、背筋に言いようの無い激しい悪寒が走り、反射的に萌苗は自身を抱きしめるように腕を回した。

そんな時だ。脳の奥で強く自身の名前を呼ばれた途端、萌苗は再び意識を失った。




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