その頃、藍染と一護の二人は刀を交わらせていた。
藍染の左肩には、出会い頭に一護が放った月牙を受けた傷痕が走っていた。しかし、それを気にする事なく、むしろ薄く笑みを浮かべて藍染は一護と対峙していた。

「…何が可笑しい」
「…殺し損ねたな、黒崎一護。今のが私の最後の隙だ」
「充分だ。傷は負わせた」
「…傷?こんなものが、傷だと?」

そう言い放った直後、萌苗が藍染のすぐ側に姿を表した。
一護は目が虚ろな萌苗に違和感を感じたが、その違和感の原因を考える暇もなく、愛染は萌苗の腹部めがけて手刀を突き刺した。

「萌苗っ!」

思わず声を荒げた一護を無視し、藍染は手を萌苗の腹部に差し込んだままでいる。
萌苗も格段苦痛に表情を歪ませる事がなく、その間にも、藍染が受けた傷が塞がっていった。

「てめぇ、萌苗に一体何をした!!」
「萌苗に与えた力の一部を返してもらっただけの事だ」

そう言うと、藍染は交えていた斬魄刀を弾いて一護を後退させた。

「――これは、主に対する防衛本能だ」
「…どういう意味だ」

一護が静かに問うと、藍染は羽織っていた上着を寛げて自身の今ある状態を一護に見せた。
彼の胸より下にある黒い玉。それを見た一護は、その特異な箇所に驚きを隠せずにいる。

「――それは――…」
「…崩玉だ」

傷が塞がっていく中で、藍染はゆっくりとそれをなぞる。すると、彼の指に一護の霊圧であろう黒い物が絡みつく。

「これが、君の霊圧か。素晴らしい、よく成長したものだ。私の、思い通りに」

思いがけない藍染の言葉に、一護の思考と身体は停止した。
今、彼は何と言った?

「―――――………何………!?」
「君は朽木ルキアと出会い、石田雨竜との戦いを経て死神としての力に目覚めた。阿散井恋次との戦いで自らの斬魄刀の力を知り、更木剣八との戦いで卍解への足掛かりを把み、朽木白哉との戦いで、虚化へと踏み出した。グリムジョーとの戦いで虚化をマスターし、ウルキオラとの戦いで―――どうやら、それ以上の力を手に入れた」

「黒崎一護、君の今迄の戦いは、全て私の掌の上だ」

「…今までの………俺の戦いが…てめえの…掌の上………!?なんだよ、それ…」
「どういうコトだって訊いてんだよ!!!」

つらつらと雄弁に、今までの事が全て自分の敷いたものだと話す藍染に、動揺を隠す事が出来ず、思わず一護の声色が荒くなる。
しかし、それを諭すように、藍染は静かに長い指を空に突き立てた。

「声を。そう声を荒らげるな、黒崎一護。
そんなに驚くことは無いだろう?私はただ、君こそが私の探究に於ける最高の素材になる。そう確信して、君の成長を手助けしてきた。そう、言っているだけだ」
「…おかしいと思わなかったのか?
それまでの人生で虚を目にした事さえ無かった君が、朽木ルキアと出会ってすぐに虚に教われた事を。滅却師が屑虚の滅却に使う撒き餌ごときで大虚が現れた事を。君が死神としての戦いに慣れ始めた頃に、それまで霊圧の捕捉さえされなかった朽木ルキアが、都合良く発見され尸魂界へ報告された事を。阿散井恋次が、更木剣八が、朽木白哉が、それぞれ皆君の力が彼等の力と拮抗した状態にある時に戦っている事を」
「一度もおかしいとは、思わなかったのか?」
「出会いは運命だと、思ったか?」
「…待てよ…」
「襲撃は偶然だと思ったか?」
「待て……」
「戦いの勝利は、君の努力の結果だと思ったか?」




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