一護はゆっくりと下を見下ろす。何を考えているのか読み取れない表情のまま膝を折ると、萌苗の身体を仰向けに返して上半身を少しだけ持ち上げた。

様々な角度で深く斬られた肌も、斬られた事によって色濃く血で染まった服も、痛々しいという言葉だけでは足りない。どうしてこんな事になっているかなんて、周りの状況を見れば分かる。萌苗を傷付けたのはきっと藍染で。そう思うと、胸の奥で怒りが沸々と沸いてきた。

「…萌苗」
「……ち、ご…」
「萌苗、良く頑張ったな」
「一護…私……」
「…喋らなくて良い」

一護の無事な姿を見られてホッとした。あの通路で何が起きたのかは分からないけれど、姿も中身も確実に成長した事が分かり、嬉しくもなる。それを伝える事はしないけれど。
そう思いつつ別の言葉を発しようとすると、血が喉に溜まって呼吸がしにくいのか、咳が出た。
咳と共に血を吐き出す萌苗を見て、一護は少しだけ眉を寄せて言葉を制した。それでも、萌苗は喋ろうと口を開こうとする。だが、一護に伝えたい事が多すぎて、何から話して良いのか分からない事に苛立ちや悲しみを覚える。
そんな風に一度に色々な感情が混ざり合った事で、萌苗の眼から堰を切ったように涙が溢れた。

「…いち…ご…っ」

−…ごめん、ごめんね。
こんなに弱くて不甲斐なくて、優柔不断な私でごめんなさい。いつも自分の事ばっかりで、一護に迷惑かけてばっかりでごめんなさい。空座町を守るって決めたのに、結局守れなくてごめんなさい−
−それなのに、こんな私を好きになってくれて、付き合ってくれて…嬉しかった。敵になってもずっと心配をしてくれてた事、例え織姫の救出が優先だったとしても、不謹慎だって判ってたけど…嬉しかった。ありがとう。本当にありがとう−
−他にも言いたい事が…沢山あるのに、何から言って良いのか分からない−

−……嗚呼、さっきまで傷口が熱かったのに、痛かったのに…もう何も、感じない…−

(……寒い)

「萌苗」
「…一護…ごめん…。…ごめんな、さい…」

ボロボロと零れていた涙が、目蓋がゆっくりと降りていくと共に、次第に止まっていく。そんな萌苗に合わせるように、一護が萌苗の顔との距離を縮めていった。
一護の顔が近くなってくるのを感じながら、萌苗は意識を失った。

(…謝るのは、俺の方だ)
「…すぐ藍染を倒して戻ってくる。だから…それまで踏ん張って待っててくれ」

暫くして、一護はゆっくりと顔を上げた。そして萌苗の今にも途切れそうな、か細い吐息を確認すると萌苗にだけ聞こえる様に小声で語りかけ床に寝かせた後、立ち上がり藍染を見据えた。




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