彼を突き放したのは自分。殺してくれと言ったのは自分。だから、自分より織姫を救う事を一護が優先させるのは不思議ではない。彼を突き放した自分は、彼の名を気安く…ましてや縋るように呼べない。
だからこうして、助けを待ち、囁くように、戻ってきてほしがるように彼の名を呼んだ織姫が羨ましくもあり、同時に彼の名を呼ばないでほしいという嫉妬にも似たような感情が渦巻く。
そんな萌苗の心情を誰も知るはずもなく、織姫の言葉が合図になったかのように一護は斬月をくるんでいた布を解き、卍解をして地面に着地する。着地の勢いで地面が音を立て窪んだ。
一護が見据える先……上方には今から倒すべき敵であるグリムジョーが一護を不適な笑みを浮かべながら見据えている。
両者が暫く睨み合い、一瞬の間を置いてから刀が交わり重く鈍い音が空間に響く。その後、二人の激しい攻防戦が続くと、ネルは耳を抑え 涙が溜まっている瞳をきつく瞑った。
「いちご…いちご…」
震えながら一護の名を呟くネルを見かねて、織姫はしゃがんでネルの頭に優しく手を添えた。
「… 大丈夫、黒崎くんは勝つよ」
「…そ…そんなの わかんないっス…!」
「だって“絶対勝つ”って言ったでしょ」
「そんな…そんなもん誰でも言うっス!!一護はきっとこわいんス!! こわい人はみんな勝つ勝つって言うっス!」
「黒崎くんは言わないよ。そんな理由で、黒崎くんは“勝つ”なんて言わない」
前を…二人が戦っている場所を見据え、凛とした声で織姫は言う。その姿を見て、ネルはポカンとほおけた顔で織姫を見つめた。萌苗もネルと同様に、二人から数歩後方から離れた場所から織姫を見つめる。
「黒崎くんは優しい人だよ。強い言葉を遣う時はいつも何かを誓うように言うの。あれはきっと、自分に誓ってるんだと思う。自分に誓ってその想いを叶える為に言葉にしてるんだと思うの」
「………」
「…だから大丈夫。黒崎くんが“勝つ”って言ったら それは絶対勝つ時だよ」
ネルが目を見開いて織姫の言葉を聞くと同時に、織姫の言葉はまるで自身に言い聞かせているようだ と萌苗は思った。
自身が口にする事で勇気を奮い立たせるような…そんな思いを、萌苗は以前した事があったから。
「…だから…、…だから待とうよ……信じて…」
そうは言いながらも、織姫が握りしめた拳は見て分かるほどに震えていて、ネルの瞳には再び涙が溜まっていった。
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