グリムジョーの声と共に、二人は距離を縮めるべく足に力を入れ前進した。互いの身体が激突した反動で砂が巻き上がり、再び二人の攻防が始まった。そのやり合いの激しさを見ていた織姫の顔は暗く、汗の粒を浮かせている。
(…怖がっちゃだめ…。…怖がっちゃ…、……だめ)
二人の戦いを見ながら、織姫は自分の中で何度も呟き、思いを馳せた。
(あの眼を思い出すと、黒崎くんが知らない誰かになってしまったように感じてしまう。黒崎くんの眼のどこにも、あたしなんて映ってないと感じてしまう…。
黒崎くん―――…)
織姫は、不意にきつく瞳を閉じ、自分を抱きしめている手に力を込めた。
今の一護を見て思い出すのは、幼い織姫を育ててくれた今は亡き兄の、虚化して自分の前に現れたあの日の姿。
一護が誰にも平等に優しく接しているのは分かっているのだ。けれどもあの眼が、声が、雰囲気が、あの日の兄と重なってしまう。恐怖の部分を蘇らせてしまう。
そんな織姫を見ていた萌苗の顔がますます険しくなったのだが、この場でそれに気付ける者は居なかった。
戦いの最中、不意に一護は三人の居る崖に眼をやった。それを見逃さず、左こめかみに鋭い一撃を喰らわせた。一護も負けじとばかりに、グリムジョーの左頬と胸元に傷を付ける。互いに受けた傷からは血が吹き出す。
同じタイミングで地面を強く踏み、力強い重音を立てながら刃を交える。両手で応戦する一護に対し、グリムジョーは隙を付いて先ほどと同じ場所に蹴りを入れる。速いながらも重いその蹴りは、身体のバランスを崩すには十分な威力で、一護は吹き飛ばされた。飛ばされながらもすぐに体制を整えるが、上空には既にグリムジョーの姿があり、一護が新たに体制を整える間もなく、自身の体重と地に降りる重力で蹴りを喰らわせた。
巨大な岩柱が音を立てて大規模に砕けるほど、その威力は大きかった。
「…か…仮面をつけた一護が…押されてるっス……」
二人の戦いを唖然と恐怖の混じった顔で見ながら、ネルが呟いた。
「ドルドーニ様の時も…ウルキオラ様の時も…、仮面つけてた時は一護が圧倒的に勝ってたっス…。仮面つけてる一護は無敵だったっス…。その一護が…、あんなにやられちまうなんて…」
そう言いながら、ネルは織姫の異変にようやっと気付いた。頑なに眼を瞑り自身を強く抱きしめる織姫を見たネルは、再び一護達に視線を戻す。そして……。
「が…がんばれ一護ぉっ!!!」
と、大きく声を張り上げた。
織姫はその声に驚き、瞑っていた眼を開け、ネルに視線を向けた。
構わずネルは続ける。
「ほれっ!何をスてるスか!!あんたも応援するっスよ!!」
「…え…」
「え じゃないっス!!一護はあんたのために戦ってるっスよ!!だのになんであんたが一護を怖がってるんスか!!」
「あんた言ったっスよね!?一護は優しい人だって!その通りっス!ネルもそう思うっす!その優しい一護が!!あんたの名前を聞いて、ウルキオラ様に飛びかかっていったっス!!!」
「一護は人間っス!!それなのに死神ンなって仮面までかぶってあんなデタラメな力つかって!!一護が苦しくないわけないっス!苦しいのにきまってるっス!!」
「だけど一護はあんたのために!!そんな力使って…、血まみれンなって戦ってるっス!!
あんたがっ…」
「あんたが一護を応援スねぇで…どうするっスか!!!」
そう今にも零れ落ちそうな涙を溜め、まくし立てるネルに、織姫は頬を打たれたような顔をした。それは、織姫が過ちに気が付いたからだ。
ネルの言葉を聞いて、織姫が自分の過ちに気が付いたにも関わらず、たまらず萌苗も口を開いてしまう。
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