2.喫茶あんぽんたん
白ヤギさんと黒ウサギさんと





「あんれマ!スズコちゃんじゃなーい?久しぶりー!
どしたのぉー、中々カオ見せないでからに!このこのぉ!」

「げ、お久しぶりです」

その日、あんぽんたんでは同じ常連のヤマキさんが居た。
お笑い芸人を目指すフリーターさんで、黙っていれば筋肉質のイケメンなのだが、そのビジュアルもオネエ口調で台無しになっちょる。

「しっつれいしちゃうわねー。『げ』って何なのよ『げ』って!」

「だってヤマキさん絡み濃いですもん」

「あっら!だからあんまり顔出してなかったのね!アタイを避けてからに!」

「……スズコちゃんはよく来店してくれているよ。
そもそもヤマキさんがよく来る昼の時間帯に、女子高生が居着いてたらおかしいでしょ」

マスターが助け舟を出してくれた。なんだかんだで気遣いの上手い男マスター。これで独身というのだから信じられない。
最初は店員の伊江奈さんが恋人か奥さんだと思っていたのだが、どうやら違うようだし。
これはアレだ。きっと度し難い変態性癖でも持っとんじゃろかい?
美女の黒パンスト脚に練乳を塗りたくらないと興奮できない性癖とか?うわっ怖っ!
エンガチョだわー。

「なあスズコちゃん。今すっごい失礼な事考えてるっしょ?」

「あ、分かります?マスターが独身なのは警察呼ぶレベルの変態だからかなーって」

「ふぅん……。あ、そうそうヤマキさん。
先月ヤマキさんがくれたあの人形好きな男の本ね。この前スズコちゃんほとんど白ヤギさんに食べさせてたよ」

「あぁーんマア…。それはショックねぇー。
色んなお客さんに読んで貰いたくてお店に置かせてもらったんだけどねえー。
へー。食べちゃったのぉー?へええー?」

「うう、あれヤマキさんのだったんですか。体格の割に繊細な本好きすぎでしょ!?」

「へいシャラらっしゃい!ミススズコそこにお座り!!」

「もうカウンター座ってますー」

「シャラらっしゃい!ん。じゃあアタイが移動するわね。
よーし、じゃあどんな髪型がいい?」

「ヤマキさんヤマキさん。僕ツインテールが見てみたいです」

「マスターまでグルか。マジか。おっさんどもが…!」

美容院でバイトしているヤマキさんは、事あるごとにこうやって私の髪をイジろうとする。

まあ、いいか。

体格とは裏腹に丁寧な手捌きだものだから、
……うん、悪い気はしないやね。

ああそうだ。『シャラらっしゃい』というのは、ヤマキさんの持ちネタで、シャラップと黙らっしゃいをかけたギャグだそうです。
正直つっまんねーなーって思ってます。はい。

「で、スズコちゃん。本の味はどうだったのぉん?」

私の髪を櫛でときながら、ヤマキさんが訊いてきた。
なんだかんだで、この人も白ヤギさんに本を食べられて嬉しいんだろう。
いいなあ、大人気じゃん白ヤギさん。

「そうですねぇ。なんか、スキヤキって感じでした」

ここで今まで机を拭いていた店員の伊江奈さんまでもが話に入ってきた。

「まあっ、スキヤキってかなりレベル高いじゃないですか!良かったですね」

「そうねぇん。スキヤキなら、あの本も浮かばれるわねぇ」

「でも、本当にスキヤキの味がする訳じゃあ無いんだろう?」

「そうですね。なんていうんだろ。スキヤキを食べた後みたいな幸福感?みたいなのがずっと続く…みたいな?
本にもよりますけど、半日から二日間くらいは浸ってられますね」

「あんらぁ…」
「なんかソレあぶねークスリみてーじゃん」

「はいヤマキさん手を動かす。あと伊江奈さん地が出てるよ」

「そんな、危なくないですって。幸福感っても、その、
風のような…綿雲みたいな感じ?ちょっと世界中の人を愛せそうな気分?になるだけですって」

「髪も上手く整ったし、ね」

ポンっとヤマキさんが私の肩を叩き、髪いじりが終わった事を伝えた。

「スズコちゃんツインテールかわいい!私もやってもらおうかしら」

美人な伊江奈さんに褒められて、嬉しくてお尻がむずむずしちょる。

マスターは伊江奈さんに向かって一言。

「もう若くないんだから。無理するなって。な?」

「ぶっ殺すぞ?」




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