4.お馬さんの尻尾
白ヤギさんと黒ウサギさんと




「あんら、あの大学生また彫像見てるわぁ」

ヤマキさんは窓の外を見て言った。

「もう20分も前からあのままですよ」

「んまあまあ!よぉ〜く見てるじゃなぁいスズコちゃぁん」

「さては分かってて言いましたね?何すか?何が言いたいんすか?」

「こらこら、あんまり苛めちゃ駄目だよヤマキさん。
スズコちゃん彼氏を彫像に取られてご機嫌斜めなんだから」

「マスターだって充分に私をからかってますよね?
もー!違うのに!彼氏でも何でもないって言ってんの!」

あんぽんたんの話しやすい常連の中で、年が近いマサグチさんは貴重なのだ。
そもそもが喫茶店に入り浸る女子高生が私くらいなのです。
ナウなヤングとして、それどうなのと思わなくもない。

まあ、いいか。

「でも飽きないわねぇあの大学生。アタイはあの像より、他のよくわからない置物のが好きだわぁ」

「それこそヤマキさん。今のマサグチ君みたいに最初は舐めるように置物見てたよね」

「やぁだマスター。変な事ばっか憶えてるぅ。
流石にもう見飽きてきたから、いい加減なんか新しい置物でも調達してよぉ〜う」

身体をくねくねさせておねだりするヤマキさん。っはー!きっしょい!

「僕が全部作ってるわけじゃないし、置こうにも元々市営の土地だ。いろいろ絡んでめんどくさいったら」

「へー!あの置物、マスターが作ってたんですか!」

「いやいやいや、作ってない作ってない。アレ作ってる奴は仕事が雑でね。
僕はほんの少し、仕上げを手伝ってるだけさ。
そうだねえ。ま、もうそろそろ何か新しいの出来るんじゃないかな。
広場に置けるかは別として」

「うふふ、期待してるわ」

こう見えてヤマキさんは芸術に理解のある人間だ。
本があればそれで良しな私としては、マスターやヤマキさんの感性はちょっとよく分からない。

「あんなヘンテコなのどこがいいんでしょうねー?」

芸術に理解のない、この場で唯一の私の味方。伊江奈さんが後ろから抱きついてきた。
座っている私と立っている伊江奈さん。
つまりおっきい感触が後頭部を包む。
くそぅ…悔しいけどちょっとドキドキしちゃうぜっ!だが負けないっ!

「マスター。お宅の店員さんがセクハラしてきまーす」

「伊江奈さん今ちょうど休憩時間だから、観念してもうちょっと僕らにその百合百合しい絵面見せつけてくれたまえ」

「でもでもぉー、あんなに抱きついちゃあ髪が乱れるわぁ。これは手直しが必要ねぇ」

「すかさずか!?」
なんでお前はそんなに私の髪いじりてぇーんじゃよん!?

「そうですねー。あ、ヤマキさん今度はポニーテールにしましょう!ポニーテール!」
後ろから聞こえる声。
どうやらここに味方は居なかったらしい。

マスターは私をチラリと見て、独り言のように呟いた。
「ポニーテールね。懐かしいな」



本当にこの人は、変な事ばっかよく憶えている。




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