戦いの意味
第三章 偽善の女神







国境線上では、一晩経ってもなお激しい攻防が繰り広げられていました


山奥に陣取ったグレイ海洋連合の重騎兵団は支援砲台を組み立てつつ、索敵警戒と情報通信による後方支援をしていました


隊員が各々の作業に手を追われている中、一人の獣人の少女はキャンキャンと喚いていました


なんで争うの!?
なんで話し合わないの!?
ねぇ!なんで!?なんでっ!?


誰も答えるものはいません
皆黙々と作業に取り組んでいました




やがて一人の兵士がロウのそばの切り株に腰を下ろし、腰に下げてある水筒に手をかけました

「・・・あんたのエゴで戦争を止めようとするんじゃねぇ」

兵士は水筒の蓋を開け、クッと持ち上げました

「俺たちは兵士だ ・・・戦うのは当然の義務だ」


ロウは震え声で答えました


あなたたちは殺し合いして幸せなの!?
みんなで幸せに暮らしたいと思わないの!?


「・・・誰も殺したくて殺してるわけねぇだろ」

兵士は呆れ顔でロウに目を向けました

「戦いたくて戦ってる奴なんていねぇよ  ・・・『守ってる』んだよ、みんな」


・・・?守る? 戦っているのに・・・?


ロウはきょとんとしました

「そうだ、守るために戦ってんだ 国のために、家族のために、平和のために・・・幸せのために、な」


そう言うと兵士は首元からチャラッとペンダントを取り出しました
「SHIN」というロゴの入った鋼のペンダントです

ペンダントを開くと、中には写真が入っていました
写真には幼い男の子を抱いた兵士と、美しい女性の姿が写っていました


「俺の母国は、ここから遠く北にあるグラデ地方にある ・・・何もないが、平和な国だ」

「俺は傭兵としてこの国に雇われたのさ 戦果を挙げればいい稼ぎになるからな」

ペンダントをにそっと手を当て兵士は言いました

「こいつらはそこに置いてきた 苦しむのは俺だけで十分だ・・・」

「あっちが無事なら正直な話、こんな国同士の争いなんてどうでもいいと思ってるよ・・・」


兵士はペンダントを服の中にしまいました


ロウはハッと気づきました

この場に、争いを心から望んでいるものがいないことに


砲弾を詰める兵士の手は震えていました

砲手は砲撃の度に、胸元にある数珠を握りしめていました

戦闘指揮する隊員の胸元にも家族の写真が挟んでありました

通信士の二人組は、無事帰ったら食べたいものの話や戦争後の生活について
楽しげに・・・叶えられないと知りながら話をしていました


「・・・いいか、戦争の反対が平和じゃねぇ」

辺りを見回すロウに、兵士は話し続けました

「戦争・・・戦いってのはな、平和のための『手段』・・・ひとつの道しるべなんだ」

「本当なら口喧嘩だけで止めときゃいいものが、後に引けなくなって、エスカレートしちまう どんどん解決方法が荒くなって、最後にはこうなっちまう・・・ 傷つける、って対話が最後の攻撃手段になり・・・最後の防衛手段になっちまうんだ・・・今みたいにな」

兵士は銃器をメンテナンスしながら黙々とロウに話しかけました

「『戦う』ってことはな、何かを『守る』から戦うんだ」

「争いがあったから、ビビドとグレイは和解できた 『守る』ものがあったから共に戦えた」

「この和解はあんたのおかげだが・・・結果として争いは平和を生むことにも繋がるってことさ」

ロウは
何も言えませんでした

「俺たちは守ってるのさ・・・大切な何か、をな」


銃のチェックが終わった兵士はロウに体を向け、鋭い眼差しで彼女に答えました

「ロウ あんたを治療し、ここまで連れてきたのは他でもない、あんたに頼みを聞いて欲しいからだ」

「これはあんたにしか出来ないことだ・・・おそらくは」


何を頼むのでしょうか?

壁を作ること?作らないこと?
敵軍への攻撃?
自国を守ってくれ?


「グレイ海洋連合国、重騎兵団隊長 シン・マリーノ 貴女に助力を求む」

ロウは息を飲みました


「願わくば・・・グレイ海洋連合、及びサウスウィンドの他国との国境に壁を作って頂きたい」


……?
他国との・・・国境線に・・・壁を?


なぜそんなことを?


「ここから先は、俺たちの戦いだ  俺たち、だけの戦いだ」

「資源がなくなれば、この国もサウスウィンドも戦火を他国に広げざるを得ないだろう」

「そうなれば、罪もない国に被害が及ぶ ・・・俺の母国も危なくはねぇ・・・」

「あんたを巻き込んじまっておいてなんだが・・・俺たちは終わらせなければならねぇ この戦いを、この国同士だけで」


ロウも同感でした

これ以上争いの火種を広げるわけにはいきません
・・・しかし・・・


そんなことをすれば両国の国民が苦しむことになる・・・

それに・・・
あなた達はサウスウィンドに勝てるの!?
他国の援助がなくなって、負けてしまってもいいの!?


シンは顔をかがめ、フフッと笑いました

「さあな・・・だが、皆この現実を思い知ることになるだろうな 民も 国も」

「少しばかり苦しんで、やっと気づくこともある そうは思わないか、ロウ?」


思い当たるふちしか
ありません


「助けるってのは悪いことじゃねぇが 過保護がいいとは限らねぇ そういうもんだ」

「『守る』ことで救われる者がいるように、『守らない』ことで得られるモノがあること・・・忘れるな」

そう言うとシンは部下に指示を出しました
皆武器をしまい、下山の準備を始めます

「あんたの力なら、訳ないと思ってるんだが・・・無理にとは言わないさ ただの要望だからな」

シンは背中を向けたまま手を振って答えました

「言いたいことは言った あとは、あんたの好きにしてくれ」

「嫌なら嫌でいい 好きな場所で過ごすといい 平和な場所だろうが地獄だろうが、なんだろうがな」

「それが、あんたの世界なんだからな」


山奥に残されたロウ

シンたち重騎兵団は再び戦火に進んで行きました






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