聖獣教
第四章 教えて








山奥に小さな教会が完成しました

こじんまりとした作りですが、とても温かみのある建物でした


「聖獣教 教会」


十数人ほどの教団員たちは、決意を秘めた目を輝かせ山を下っていきます
彼らの腕にはロウが付けているものと同じ、真球に紐を通したブレスレッドが付けられていました

形を持ちながら誰も傷つけないもの

ロウの思想を反映したような真球に、教団員は強固な祈りの念を込めていました




皆が教会を離れていく中、ロウは不安な面持ちで教会の座椅子に腰をかけていました

ガルアの言うとおり、教えを明確な形にするのは大切です
その為に宗教団体として布教する案も考えてはいましたが、戦争に発展する可能性を考え、今まで実行しませんでした
それが、今回こうして形になったのです



これが原因で争いが起きないだろうか・・・

でも、平和への意思を広めていくには、こうした『形』が必要なのかもしれない・・・

・・・信じよう 人を
信じよう 皆を・・・






教団員達は堅実にロウの教えを守りました

世界各地を巡礼し、ロウと同じように知識を広めつつ、平和への簡素なアドバイスを「聖獣教」というブランドを掲げて人に伝えて回りました

彼らは巡礼の旅の中で学んだ知識を協会に持ち帰り、ロウに伝え彼女の糧としました
ロウもまた、新しい知識を学びつつ教団員を指導しながら、やさしい世界を目指す自分の想いを語り歩きました


無論迫害を受けました

ですが、長き時と共にロウ達の考えに賛同する者は、少しずつ 少しずつ ゆっくりと でも確実に、数を増やしていきました


長い年月を生きてきたロウが実感した合理的で機能的な生き方

それはロウの言葉を通して
教団員たちの言葉を通して
優しく人々に語られていきました


ちょっとしたコツ
暮らしの工夫
心の持ち方

やんわりと 大雑把で
とてもやさしい教え


多くの人たちがロウの教えに賛同するようになりました

祈りを捧げるでもなく、神の奇跡を信じるでもない、自分たちの手で作れる平和

形ある平和の糧が作り出される現実に、大勢の喜びの声が上がりました


新しく街に教会が建ち、国の政治理念となり、 少しづつ 少しづつ ロウの教えは世界に広まっていきました



教団を作って 本当に良かった

ロウは嬉しい気持ちでいっぱいでした
だんだん平和へと近づいている、そんな気持ちが湧き上がっていました



教団員たちの持ち帰る知識をロウは本に記し、教会裏に増設した大きな図書館に溜め込みました

知識が増えるに従いロウの教えは洗練され、より機能的に改良されていきました
改良された知は人々の生活をさらに豊かなものへと変えていきました


多くの恵みを人々に与える獣神


ロウは神格化され、「聖獣教」はひとつの宗教とされ、世界に認知されていったのでした





「・・・ありがとうございました こんなこと、誰にも相談できなくて・・・」

小さな教会の一室
テーブルに置かれた空のティーカップをお盆に乗せながら、ロウは座っている女性に振り向き、ニコッと笑いました


お気になさらず
あなたの気持ち
確かに受け取りました


「本当にありがとうございます・・・これはほんのお気持ちです、お納めください」

椅子に腰掛けていた女性は
皮袋から銀貨を何枚か差し出しました


お気遣いなく
そのお金は受け取れませんよ


ロウが拒むと、女性はブンブンと大きく首を横に振りました

「いえいえ!! こんなに親切にして頂いて何も差し上げられないのは困ります!! 先程勘違いしてしまった失礼もあります、せめてもの感謝の気持ちとしてお受け取り下さい」


ロウは何も求めてはいませんでしたが、その女性が心から感謝の気持ちとしてお金を出しているということを感じ取りました


・・・わかりました

ありがとう
このお金は平和のために役立てますよ




山を下っていく女性を手を振って見送り、ロウは教会に向かってくるりと踵を返しました


「ロウ様!ただいま戻りました!」

背後から傾斜を駆け上がる足音が響きました
振動が近づくと、鋭い岩石の角が地平線から現れました

教団員のガルアです


おかえりなさいガルア

遠路への巡礼、お疲れ様でした
お茶でも出しましょう


ロウは振り返ってニコッと笑いました
フワフワの尻尾が風になびきます

ガルアは息を切らし、深刻そうな顔を浮かべていました







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