マーベラス!
改革



わずか五日で体重がかなり落ちた。
別に過酷な運動や怪しい薬を服用したわけではない。よく食べて、よく働き、よく寝ることを繰り返しただけで体重が減ったのだ。絶賛減量中のボクサーもびっくりだろう。
実際のところは皆さん御察しの通り、痩せたというよりやつれた、なのだが。

「うぅ……まだ頭がぐるぐるする」

私は近くのベンチに腰掛けた。あの天国のコーヒーカップにはもう絶対乗らないわ。次入ると自力で抜け出せる自信はない。
ようやく腕に力が戻ってきたところで私は次のアトラクションへ向かった。残る遊具はあと一つ、比較的安全そうな観覧車だ(当社比)。もちろんマーベラス社製なのは言うまでもない。
どうしてこんなことをしているのかを説明すると、私がここに配属されることになった五日前に遡ることになる。私は以前からこの第一階層でやりたいことがあった。そう、罪人たちの寝床の確保だ。居住区で寝泊まりしているのはまだマシなほうで、人によってはこの遊園地エリアで眠っているという。日中、人が行き交う道の上で寝る姿なんて私には目も当てられない。
罪人たちの生活環境の改善も私たちの仕事の内で、また彼らの気持ちに多少なりとも変化を与え、少しは出所できる数が増えるのではないかと私は思っている。
そんな素人同然の考えで居住区の拡張をしようと思っていたのだがここで大きな問題に差し掛かる。ここの担当のマルクとメルクだ。

「居住区の拡張?何それ楽しいの?」

「私はフードコート拡張したいなー」

案の定、基本自分たちが楽しむことを優先するであろう彼らは私の提案になど見向きもしなかった。元々その日は『あの』ドクター・マーベラスが居たので期待はしていなかったが、やはりにべもなく断られたのには少し堪えるものがある。
更に上司に当たるミニエルに相談するのもアリだが、ここに配属された以上自分の手でやっていきたい。その為にはまずあの二人を納得させられる何かが必要だ。私はその日の残りを情報収集に費やし、次の日に再び戦いを挑むことにした。
まだ居たマーベラスを含んだ三人に徹夜して作成した資料を渡した。セラから『こんぴゅーた』なる物の使い方を教わってなかったらもう一日徹夜していたかもしれない。

「見ればわかる通り、大人気な遊具もあれば一日で数十人しか使わない遊具もあるわ。私はその人気のない遊具を取り壊して居住区を増やしたい、と思う、の」

私は二人の氷のような冷たい視線に言葉尻を濁した。いつもニコニコしてて明るい二人。そんな彼らの見たこともない一面に体から冷や汗が噴き出してきた。

「シャーちゃん、僕たちは今まで何百年とこの方法でやってきたんだよ」

「そんな私たちに新人が『気にくわない。変えろ』と言われただけで素直に従うと思う?」

彼らの冷淡に放つ言葉に唇を噛み締めた。確かに彼らの言うことは尤もだ。ここでは彼らは上司で、私は新人の部下。何か口出し出来る立場にはない。

「まあまあ二人とも落ち着け。私としては彼女の意見も正しいと思うぞ」

意外な助け舟に私は声を失った。まさかあのマーベラスが、独断的かつ突発的行為を息をするように行い、人間観察が趣味の自己中で友達も少ないあのマーベラスが私の味方をしてくれたのだ。散々な言いようかもしれないがもし彼の世界の記者がここにいたなら新聞の一面に掲載されることは間違いない。

「なにせ商売というのは客あってのものだからな!我がマーベラス社にとって奴らのひめ**歓声は最大の喜びだ」

動機は不純であるが私は何よりも味方してくれることが嬉しくてもはやどうでも良かった。

「しかし二人の言い分も理解できる。そこで、中立を保つこの私が一つ提案をしよう!」

……なんだか雲行きが怪しくなってきた。

「シャル君には今日からこの幽遠地のアトラクションを全部巡ってもらう。数値だけでのデータではなく、その身をもってして体感しその感想を記録するのだ。シャル君は実績が積めるし私にとっては良いモニターになるという一石二鳥な内容だとは思わないかね!?」

こっちにとっては超ハイリスクローリターンなんだけど。ほんとリターンがあるだけマシだと思えるくらいなんだけどそれ。

「でもそれ僕たちにはメリットないよね?」

「無いな。てんで全く露ほども。だが先達の訓として覚えておくが良い、小さき我が友人たちよ。例え自分に利得が回ってこなくてもひたむきに努力した者には相応の報いを支払う。それが上司としての責務であり、円満な関係を築く方法であるのだと」

彼は第一世界の管理者であり、その世界最大規模の会社の社長だ。先ほども言ったように猪突猛進で厄介な性格なのだが不思議と社員たちは文句も言わずついて行き、むしろ一人一人がイキイキとしている。副社長以外。
あの副社長の状況さえ知らなければ一生ついて行きたいと思ったことだろう。

「なに、誰でも今が壊されるのは怖いさ。だが新しい未来へ踏み出すにはそれが必要なときだってある」

マーベラスは二人の肩をポンと叩いたのち、一休みしてくるとフードコートに向かった。後は自分で頑張れと似合わないウインクをこちらに向けてきた。ありがとう、頭はおかしいけど心は優しい社長さん。

「……私たちも、別に意地悪したかったわけじゃなかったの」

「冷たく当たっちゃってごめんね。自分の居場所が壊される気がして怖かったんだ」

二人は俯き加減でそう小さく呟いた。小さな肩を震わせるその姿にこちらもつられて泣きそうになる。
その気持ち、なんとなくだけど分かるよ。

「大丈夫。今以上に楽しい場所になるよう頑張るわ。約束する」

二人の頭を撫でてやると無言で体を寄せてきた。こんな仕事をしているが彼らはまだまだ子供なんだなあとつくづく感じた。でもどさくさに紛れて胸を揉むエロガキまで再現しなくていいのよマルク。

「あっ、アトラクション巡りはやってもらうからね!」

「条件だからね!」



バレたか。うやむやにするつもりだったのに。


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